最速151キロの関学大・黒原拓未投手(4年=智弁和歌山)は広島にドラフト1位で指名された。関西の大学球界NO・1左腕は、即戦力として期待される。

春季リーグで株が急騰した。5勝1敗の防御率0・88で3完封。速球の球威は抜群で、カットボールやチェンジアップも駆使する本格派だ。「1年から投げていたけど、いい結果を残せていなかった。恩返しできました」。リーグのMVPで優勝に導き、全日本大学野球選手権でも躍動した。

大学3年までは不本意な成績だった。最終学年の4年春、覚醒した大きな理由は無走者でもクイック投法を貫いたことだろう。

「自分の中で、ランナーなしとありで投げ方を変えていたら、走者がいない時、いる時で違う感覚で投げないといけない。走者が出た時に、急に感覚が変わったら投げづらい。春はクイックだけにした」

ある剛腕がヒントになった。昨年、西武戦を見ていた。何げなく平良の投球を見て、気づいたという。

「ランナーなし、あり、どっちもクイックでした。俺も、もともとクイックの方がバランスがいいし、やってみようかなと」

昨年11月に左肘遊離軟骨の除去手術を受け、傷が癒えるとクイックの精度向上に取り組んだ。タメをつくれず、球速が出にくい動作だが自己最速を更新。「四球が減ったのが大きいですよね」。バランスも改善され、飛躍につなげた。

チーム内では絶対的なエースながら、後輩とは壁を作らず親身に接してきた。「僕、そういう壁を感じるのが嫌なんです。最初から壁がない方がいい。『黒原さん』じゃなくていいよ、とみんなに言っていて」。体育会系の厳格さはない。ゆるやかで、自由なムードが、黒原の周りに流れている。「クロさん」と親しまれるキャラクターが剛腕の素顔だ。昨秋、チームはファミリー制を導入。各学年3~4人で「1家族」をつくり、4学年の風通しはよくなった。「クロさん」はオンライン親睦会で立場にとらわれず気さくに話す。

オンとオフを切り替え、勝負に挑む。実力派左腕が真価を発揮するときがやってくる。【酒井俊作】

和歌山・海南市出身。173センチ、71キロ、左投げ左打ち。