日本ハムの新監督に就任した新庄剛志氏(49)が、指揮官としてどういう野球、チームづくりを展開するのか。「新庄baseball」と題して探る第2回は、新庄氏の現役時代は広報だった「DJチャス。」こと球団職員の中原信広氏(54)に聞いた。

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04年7月11日、長野で生まれた伝説は必然だった。球宴史上初の単独本盗でMVP。舞台裏では、新庄氏らしい“準備”があった。現場に同行していた中原氏は「びっくりしたけど、新庄ならではの“直感”だったな」と、振り返る。

伝説前夜の出来事。ナゴヤドームでの球宴第1戦の試合中だった。ベンチ裏で試合を見ていた中原氏の元へやってきた新庄氏が「中原さん、ダメばい。どうやったらMVP取れるんですかね?」と珍しく弱音を吐いた。球宴前に史上3人目となる両リーグMVP獲得を宣言も、第1戦は最初の打席から2打席連続三振。気合が空回りしていた難局を打開したのは、周囲の想像を軽く超える、大胆な発想だった。

ほどなく中原氏の元へ、血相を変えた新庄氏の専属広報だった荒井修光氏(48)がやってきた。「今日、長野に入るって言ってます」。仰天の報告を受けた。当初は他球団の球宴出場選手と同様に名古屋で1泊し、長野へは電車で当日移動の予定。驚いた中原氏だが、すぐに合点がいった。「先に長野へ乗り込んで第2戦にかけようということか」と新庄氏の“直感”の真意、そして覚悟を察し、すぐさま根回しを始めた。

日本ハムから出場していた小笠原ら同僚に了承を得た。ナイター後の移動のため、電車はなく、急きょジャンボタクシーを2台手配。宿泊先もキャンセルと新規予約を手早く済ませるなど、ドタバタの中で日付も変わったころに長野への先乗りが完了した。

移動後には焼き肉屋で日本ハム勢全員で決起集会も行い、英気も養った。当日移動を回避して、しっかりと体も休めて臨んだ第2戦。うまくいかなかった流れもリセットされた中で、ファンの期待を裏切らないスーパープレーで有言実行のMVPを獲得した。中原氏は「たまげたよ。本盗が決まって本当にMVP。見ていて、うれしかったな」と、興奮したことを鮮明に覚えている。

ホームスチールを決めた新庄氏は試合後に「球宴初? 初じゃなかったら、やらないでしょ」と平然と言ったが、その裏では前例や慣例にとらわれない柔軟な思考と決断力があり、目的達成のためにできることを尽くす姿があった。監督となっても同じだろう。したたかに、勝つための“準備”を進めるはずだ。【木下大輔】