今年の日本シリーズはヤクルトがオリックスを4勝2敗で下し、20年ぶりの日本一に輝いた。優勝が決まった第6戦は5時間の大熱戦。6戦のうち5戦が1点差ゲームという激闘を、日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏(51)と和田一浩氏(49)が回顧した。力量の接近した両チームの差はどこにあったのだろうか。【構成=小島信行】

小島 日本シリーズはヤクルトの20年ぶりの優勝で決まりました。

和田 先輩、よかったですね。おめでとうございます!

宮本 俺は祝福する立場であって、祝福されるのはヤクルトだろ(笑い)。もちろん、1人のOBとしてはうれしいけど。

小島 でもオリックスの日本一を予想する評論家が多い中、ヤクルトの勝利を予想していました。

宮本 予想は野球ファンのためにするもの。当たったからって、胸を張ったり喜んだりするもんじゃない。始まる前にみんなで、あーだ、こーだと予想して楽しむものでしょ。

和田 確かにそうなんですよね。できればやりたくないですよねぇ。

小島 企画している側からすると、2人で冷静に話されても困ります。だいたいの評論家はやりたがらないもんですよね。でも今回は予想ではなく、日本シリーズを振り返って総論です。よろしくお願いします。

宮本 今回の日本シリーズは、すごく面白かったんじゃないかな。3点差以上、開いた試合はなかった。どの試合も接戦だった。力量的にも似たような戦力だったし。

和田 そうですよね。でもどちらも思っていたより打てなかった。オリックスは先発投手がいいからヤクルト打線は苦しむかと思ったけど、打てないまでも粘り強く戦えていた。一方のオリックス打線は、もうちょっとヤクルト投手陣を打たないといけなかった。若い選手が多いから仕方ないんでしょうが、もう少し基本的な技術を上げていかないといけませんね。

宮本 確かにファーストストライクを見逃したり、追い込まれて甘い真っすぐを見逃すことが多かったよな。おそらく狙い球の絞り方とか、追い込まれてからのバッティング技術が足りなかったんだろう。

和田 狙い球を絞ると、それ以外の球にバットが出てこなくなるんでしょう。こういう大一番になると、気楽に打てないから余計にバットが出てこなくなる。真っすぐを待って変化球に対応する技術。変化球を意識していても真っすぐに反応できるような技術。そういった技術が足りない。いいピッチャーにいいピッチングをされたら、そう簡単には打てないけど、それでも圧力をかけて終盤にはつかまえるとか、次に投げるときへのプレッシャーをかけるとか、そういうのがなかった。その点、ヤクルトはしぶとくいけてましたよね。

宮本 そこの差はあったな。オリックスで痛かったのは、吉田正が本調子じゃなかったこと。

小島 27打数6安打で打率2割2分2厘。三振が6個で、四球は1個でした。

宮本 打率以上に怖さはあったけど、そんなに三振するタイプじゃない。長打を狙っていそうなときのスイングが、バットを両手で離さずに振っていた。おそらく思い切って振ると、骨折した右腕に負担がかかるから左腕を離せなかったんだろうね。

和田 でしょうね。だから外角のボールゾーンにくる変化球にバットが止まらないし、ファウルで逃げられない。やはりオリックス打線は吉田正しだい。本調子でなかったのは痛かったですね。

小島 でも今シリーズのチーム打率はヤクルトが2割1分3厘でオリックスが2割4分。ヒット数もヤクルトが43安打で49安打のオリックスが上回っていたんですよ。

宮本 数字は重要だけど、それだけでは語れない“差”があった。例えば最終戦になった第6戦、4回無死一塁からT-岡田が外角の真っすぐを見逃し三振して、走っていた一塁走者も二塁でアウトになった。フルカウントだったから自動的にエンドランがかかっていたんだろうけど、あの状況でストライクゾーンの真っすぐだけは見逃しちゃいけない。走者は杉本で走力がある選手じゃない。二塁へ送球しやすい球は振らないと三振ゲッツーになる。低めの変化球を空振り三振したのなら走者がセーフになる確率は上がるし、ある程度は仕方ないと諦めがつくんだけど…。

和田 打てるか打てないかの結果ではなく、打ちにいっていい球に対してしっかりしたスイングをしていけるのかが大事。その“差”がありましたよね。

小島 最後は代打起用の差も感じたんですが? イニングは違うけど、同じ2死二塁という場面でジョーンズは申告敬遠されて、川端は決勝タイムリーでした。

和田 あのジョーンズの代打はもったいなかったですねぇ。マクガフが投げる場面まで取っておきたかった…。

宮本 試合展開によって仕方ない部分もあるけど、そういう「流れ」があるのが野球の面白さ。でもヤクルトはよく研究していた。配球とかも“ミーティングしていた感”があった。

和田 中村は頑張りましたよね。MVPは誰も予想できなかったけど(笑い)。

宮本 中村も頑張ったけど、衣川バッテリーコーチの地道な成果だよ。これまでは知名度がないから、中村が配球ミスすると衣川のせいにされてかわいそうだった。でもバッテリーコーチをやる前はスコアラーで優秀だったんだよ。真面目だし毎試合、毎試合根気よくやってた。それを中村が理解できるようになったんじゃないかな。バッティングも配球の知識を生かせるようになったからよくなったんだと思う。影のMVPは衣川バッテリーコーチでいいんじゃないかな。

小島 そういうコーチの存在は大きいですよね。今年は日本シリーズのセの連敗もストップ。来年も白熱したシーズンを期待しましょう。