「究極の投球」とは何か。DeNA今永昇太投手(28)は「究極は自分の50%が相手にとっては100%。(オリックス)山本由伸選手は調子が悪くても、おそらく1、2失点で済む。ああいう投手を目指さないと」と答えた。沢村賞投手を例に、脱力投法で最良の結果を目指す。

投球とは相手があるもの。必ずしも全力投球が最高の結果をもたらすとは限らない。「自分の言葉で表すなら頑張って投げない。ひょうひょうと投げる感覚が一番いい。山本投手らいい投手は頑張って投げていないと伝わってくる。そういう投げ方ができれば、イニングも増えるし、いい投球ができる回数も増える」。力んで投げれば結果にかかわらず、全力を尽くしたという満足感を得られるかもしれない。一方で消耗は避けられない。

力を抜くことは、簡単そうで難しい。ブルペンと違い、マウンドでは打者がテークバックを取る姿勢が自然と目に入る。「相手が刀で切りかかってくるときに脱力は難しい。力むことに安心感を覚えないのが、いい投手の秘訣(ひけつ)ではないか」とにらむ。大舞台やピンチでも平常心を保つため、オフは「BRAIN DRIVEN」(青砥瑞人著)という脳科学者の本を読んで研究している。

エースでありながら向上心は限りない。山本以外に巨人菅野智之投手(32)と自チームのリリーバー山崎康晃投手(29)からも「話を聞いてみたい」という。理由は、両者ともに成功が当然で失敗がクローズアップされる領域に達している投手だからだという。

山崎は1学年上で前年のドラフト1位投手だ。「ヤスアキ選手はチームの顔として確固としたものがあって、ある程度の年俸もらっていて、やることが当たり前という中で失敗だけがフォーカスされる。その中で野球をやっている選手はすごいというか、自分はまだまだそこのレベルにいっていない」と尊敬の念を抱いている。

左肩のリハビリをしていた昨春は、沖縄県嘉手納町の2軍キャンプで一緒の時間を過ごした。「山崎選手は陰で頑張っている。キャンプ中、練習が終わった後、ファームではジョギング、ランニングを頑張っていた。そこはまったく記事にならないし。それを見てくれというわけではないが、それはものすごくつらいなと。彼は誰にも見せないし、誰にも文句もいわない」。プロで初めて2軍スタートとなったチーム最高年俸の投手が、黙々と練習を重ねる姿に刺激を受けていた。

菅野は長年巨人のエースを張り続けている。「菅野さんは悪い結果ばかりがメディアに取り上げられて、そのストレスは半端ないだろうと。自分のメンタルはどうなってしまうのだろうと興味がある」。菅野は通算107勝56敗、勝率6割5分6厘。負けない投手だけに、負けがクローズアップされる。通算46勝42敗、勝率5割2分3厘の今永には、興味をそそられる対象だ。

左肩の不安がなかった19年は、13勝7敗、防御率2・91とキャリアハイの成績を残していた。手術、復活をへた2022年。「究極」を求める今永の挑戦は続く。【斎藤直樹】