プロ野球独立リーグ、BCリーグ新潟の稲葉大樹内野手兼野手コーチ(37)にとって、今季は特別なシーズンになる。リーグ初となる通算1000本安打の「金字塔」まで、あと67本に迫っている。橋上秀樹監督(56)は「コーチより選手優先」を明言して、大台達成を後押しする。当人は1000本安打を意識せず、打席の一打に集中していく覚悟をみせる。チームは3月10日から高知でのキャンプを経て、4月9日のリーグ開幕に向かう。

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稲葉が鋭い視線をボールに注ぐ。真っ芯でとらえたバットが乾いた音を立てた。真剣な顔つきで繰り返したティー打撃。「『1日1日、うまくなる』という気持ちでやっている」と言う。BCリーグ創設初年度の07年から新潟に所属する37歳。リーグと球団の歴史とともに歩んできた男の内面は若い。「1つの打席で目の前の球をしっかり、シバキあげたい。1打席1打席の積み重ね。結果として、それが(リーグ初の)1000本安打につながればいい」。

その1打席のために、オフから体力アップを図っている。「年間を通じて戦える体を作り上げるというのがテーマ。限界に挑んでいる」。ランニングは連日欠かさず、筋トレも手抜きなしだ。昨季の終了時点で通算933安打。19年にリーグ初の通算900安打を記録も、同じ北地区に所属するライバル群馬・井野口祐介外野手兼打撃コーチ(36)の通算934本に1本、後れを取っている。橋上監督は「コーチの役割を減らして(今季は)選手をメインにやらせたい。1000本安打を誰よりも早く取らせたい」と背中を押していく構えだ。

もっとも稲葉はリーグ初の大台到達にこだわりはなかった。「自分の中では、見えていない」と意識から外す。15年から野手コーチを兼任し、代打起用が増えた。昨季は36試合出場で78打数21安打。11、13年には3桁安打をマークしたが、20年には1桁8安打に終わってもいる。だからこそ今季、狙うのは多くの出場機会。「上から9人がスタメンとして試合に出る」と言い、若手との先発争いに“立候補”する。「投手と捕手以外なら、どこでも出られるように準備する。自分の一打で、球場に来てくれた人を喜ばせたい」。【涌井幹雄】

◆稲葉大樹(いなば・ひろき)1984年(昭59)8月22日生まれ、東京都出身。安田学園高-城西大。クラブチームを経て、07年に新潟入団。11年には打率3割7分で首位打者を獲得。ベストナイン5回受賞。リーグ通算875試合、2999打数933安打で通算打率3割1分1厘。右投げ左打ち。内野手。背番号2。171センチ、80キロ。血液型A。