同じプロ入り3年目で無双のピッチングを続けるロッテ佐々木朗希投手(20)と、開幕後1試合だけ先発し、上半身のコンディション不良で登録抹消中のヤクルト奥川恭伸投手(21)。ともに1年目は体作りをメインに調整。2年目は登板間隔を空けながら先発し“エース級”の結果を出した。さらなる飛躍の期待がかかった今季ここまでは、なぜ明暗が分かれてしまったのか? その原因を、連続写真でフォームをひもとく「解体新書」で、日刊スポーツ評論家の西本聖氏(65)が探った。

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両投手ともセットポジション(<1>(1))からの投球フォーム。奥川は(2)までオーソドックスなスタイルで静かに左足を上げている。やや頭が突っ込んでいきそうな気配が漂うものの、お手本にしていい立ち姿だと言っていい。

一方の佐々木朗は<2>から<3>までを見ても分かるようにダイナミックに左足を高く上げている。私も若い時は左足を高く上げるタイプだったが、これだけダイナミックな動きの中で真っすぐな立ち姿をできる投手はいないだろう。強靱(きょうじん)な足腰、股関節の柔軟性、そして天性のバランス感覚を持っている証拠。素晴らしすぎて、他の投手がマネをしたり、参考にできるような動きではない。

左足を上げてからの動きに、違いが出てくる。微妙な違いだが、軸足(右足)の使い方に注目してほしい。奥川は(3)→(6)にかけて軸足で跳ぶように力を使っている。だから、(4)→(5)で左足のスパイク裏が低いところから上に向かってめくれていくのが分かるだろう。

一方の佐々木朗は<5>→<6>で軸足の膝に重心を残し、左足を低い位置のまま、伸ばすようにスライドさせて使えている。下半身をこのように使えると、上半身に力を伝えることができる。

奥川は跳ぶように軸足を使うため、(6)で伸びきってしまっている。軸足に余力がないから、左足を踏み込む際に上からドスンという流れで落ちてしまう。

この軸足の使い方が、上半身の負担につながっている。テークバックも、(5)→(6)では肘から上がっていて、両腕のラインが「M」の字のように両肘が高く上がりすぎてしまう。(7)でもボールを持つ手は高い位置にあるが、肩のラインより右肘が上がってしまっている。肘への負担がかかるテークバックになっている。

佐々木朗も<6>で肘から上がっているが、ここから<7>にかけてはボールを持つ手で素早く上げている。だからトップの<7>では右肘が肩のラインより少し低いベストの位置に収まっている。ボールを落とす際の<5>で、もう少し背中側に入らない方がいいが、トップに上げていくまでのスピードが速く、これが腕の振り遅れを防ぎ、肘への負担を減らせている。

腕の振り遅れが右肘への負担になるのだが、佐々木朗と奥川の<8>→<9>((8)→(9))を比べてほしい。<8>((8))は写真のタイミングが違うため少し分かりづらいかもしれないが、佐々木朗は肘がしなるように使えているが、奥川にはそれほどしなりが感じられない。その結果、リリースでは佐々木朗は右肘よりも前でリリースできる(<9>)が、奥川は右肘が胸の前より出ていて、リリースポイントも遅れてしまっている((9))。

<10>→<12>((10)→(12))までを比べても、佐々木朗の背番号は見えないが、奥川は見えてしまっている。佐々木朗は腕だけがスパッと伸びるようにして捕手方向に振れているが、奥川は腕が振り遅れるため、捕手方向に真っすぐ腕を振れなくなる。だから左肩の開きが早く、右肩も一塁側に流れるような使い方になってしまい、背番号が見えてしまう。

昨年1年間は、ともに先発する間隔を空けていた。佐々木朗はその間に右肘に負担のかからないフォームを模索していたのだと思う。投げる度に少しずつ、よくなっていった。奥川は登板後の負担が大きかったのだろう。だからフォームを見直す余裕がなかったのだと思う。この差が今季ここまでの差になったと考えている。

フォローするわけではないが、奥川も素晴らしい資質を持っているのは間違いない。体の強度には個人差がある。登板後に必要以上に負担がかかるなら、それは投げ方が悪いか、身体的に弱い部分があるから。ケガから復帰した後はブルペンでしっかり投げ込み、体の弱い所を鍛え、負担のかかる要因を追究して復活してもらいたい。