見開いた大きな目から思いがあふれ出た。巨人原辰徳監督(65)が目頭を押さえた。通算で35年間、巨人軍と歩みをともにした。監督通算17年のラスト采配。試合前に選手たちに“最後の1勝”を懇願した。
2回2死三塁、吉川の先制適時打の決勝点を母校・東海大の後輩、山崎伊がDeNA打線を2安打無失点に抑えて、プロ初完封。名将が自らが持つ球団の歴代最多を更新する1291勝目で結んだ。
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1-0。原監督が最後の勝利を見届けた。自ら退任を表明した試合後のセレモニーで、阿部新監督と固い握手を交わした。勝負の世界で生き続けた35年。指揮官としての17年の記憶が、鮮明に浮かび上がった。次の1勝を追い求め続けた。この日の試合前は、いつもとは少しだけ違った。
選手たちを集めた“最後のミーティング”で懇願した。「今日は初めて選手の前で私的に『とにかく勝ってくれ』と。見事に応えてくれたというね」。勝利後の囲み取材で内幕を明かした原監督は、我慢できずにハンカチで目頭を押さえた。「おととしの7月くらいからチームが思うように動かずにね。ここっていう時に勝てなかった。振り返ってみたときにね。まあ、しかし『今日は頼む』と、いつもそうやって頼んどきゃよかった」。悔しさとうれしさが交差した涙だった。
レギュラーシーズン2407試合目のベンチからの景色は少しだけ違った。4位Bクラスが決定した9月29日の夜に退任を決断し「自分の中でどこかに最後っていうのはあった。やや、ちょっと違う目線になってたかもしれない」。自身の進退と同時に、次世代に目を向けた。「来季、阿部新監督のもとにやってくれることを願う。ここは新しい力に託すべきだという風に思いますね」と続けた。
東京ドームの監督室でバトンを託した際には大きな、温かい手で背中を押した。「選手としての経験値は、彼以上の人はいない。不安、期待があるのは当然。それを乗り越えていかないと。その答えが分かっていて向かっていく人なんて誰もいないんだから。しっかり準備をして前を進むということが大事だと思います」と託した。原監督が求め続けてきた“次の1勝”は、阿部新監督に引き継がれた。【為田聡史】