社会人野球の強豪・トヨタ自動車野球部に、伝説の声出し男がいる。

公式インスタグラムの動画で公開される「Yu-Voice」の名で試合前の声出しに励む、5年目・高橋優外野手(27=亜大)だ。昨秋と今夏の社会人野球2大会制覇したトヨタに、ユーボイスは欠かせなかった。昨年春に始めた声出しは、いつしか自前のワイヤレススピーカーをベンチ裏に持ち込み、チームのエピソードと絡めた自作音源を流し、ナインを鼓舞するようになった。「戦力になれないかと考えた時に、やっぱり声だと。じゃあその声を象徴するのは声出しだと」。

高橋が試合前日に作成する音源は、動画編集アプリを使用する。選曲から自身の声の録音、時には自動音声風の声を織り込むこともあり、かなり手が込んでいるようだ。

史上初の秋夏秋の2大大会3連覇を目指したトヨタは、11月8日から開幕した社会人野球日本選手権に出場。13日の2回戦にホンダ熊本に延長11回タイブレークの末、敗退した。高橋自身の2大大会の出場は22年夏の都市対抗野球が最後。ただ、求められた役割は声出しだけじゃなかった。「僕の出番があれば、後半かタイブレークで『(首脳陣からの)準備してくれ』と。相手の粘りの強さに僕らが負けたんですけど、僕らもやるべきことをやって、ベストを尽くしました」。

1人の選手としての、プライドがあった。「試合に出たかった寂しさもあります。来年、野球ができるかわからないですけど、いつまでもユーボイスをやるわけにもいかない」。

史上初3連覇を逃した直後、ムードメーカーは目を赤くして心境を明かす。「社会人野球で、初めて試合に負けて涙が出てきて。このチームが好きで負けたくなかったし、ユーボイスもやりたいって。この負けは、僕にとってもチームにとっても大きな負け。来年が楽しみです」。創意工夫をこらし、声で選手たちを癒やし、気持ちを高めた高橋。常勝トヨタの歴史に「声出し男」の名を残したい。【中島麗】