ロッテ西岡剛内野手(24)と早坂圭介内野手(24)がタクシー無賃乗車の男性を捕まえていたことが30日、分かった。今月11日深夜、西麻布の交差点でタクシー料金を支払わずに逃走する若い男性を発見。チームトップの俊足を生かして取り押さえた。タクシー運転手が被害届を出さず示談にしたことから警察からの感謝状はなかった。それでも危険を顧みず、悪を見過ごさない2人の勇敢な行動は、強盗や窃盗が多発する年末に「一般市民も連携して安心を守る」という防犯の原点を示す大ファインプレーだった。

 正義感あふれる、お手柄だった。今月11日、深夜の西麻布交差点。食事を終えてホロ酔い気分で歩いていた西岡と早坂の耳に、タクシー運転手の叫び声が響いた。「無銭乗車だー!」。50代のタクシー運転手の指さす方向を見ると、若い男性が猛ダッシュで天現寺方面へ逃走していた。すぐに事態を把握した2人の足は、自然と反応していた。西岡は盗塁王2回、早坂は2軍で3回盗塁王を獲得。ともに入団時には50メートル走6秒0を誇る俊足コンビだ。逃げた男性にとっては、相手が悪すぎた。歩道を走りながらも途中、路地に曲がってくる車に接触するアクシデントにも見舞われた。しかし込み合う車の列を身軽にすり抜け、約100メートル全力疾走して取り押さえた。

 西岡は「試合で盗塁するくらい速かった(笑)。メッチャ疲れましたわ」と振り返った。駆けつけた警察官に男性を引き渡し、一件落着。タクシー運転手が被害届を出さずに示談にしたことから感謝状はなかったが、グラウンド外でもファインプレーが光った。「運転手さんから『本当にありがとう』と言われて、うれしかったですね」と、思い出しながら笑顔で話した。

 幸い、ケガはなかったが、1つ間違えれば乱闘に発展する可能性もあった。凶器などを持っていれば、大惨事にもなりかねない事態だった。プロ野球選手という「体」が資本の商売だけに、ケガでもしたら一大事だった。29日には兵庫県稲美町でタクシー運転手が首を刺されて殺害され、この日も東大阪市でタクシー運転手を狙った強盗殺人事件が発生。世界的金融危機の影響もあり、世界各国で暴動や犯罪が増加する傾向にある。日本も例外ではなく、身近なところではタクシーやコンビニ強盗、電車内でのトラブルが後を絶たない。

 暗い世評を感じてか、西岡は「プロ野球選手というのは夢を与え、周りの人に笑顔や元気を与えられる職業だということを最近感じられるようになった」と、言葉を選びながら話す。世相を反映した今年の漢字に選ばれた「変」に代表されるように、政治、経済、生活、スポーツ界でも変化がみられた2008年。西岡と早坂から体を張った、有言実行のお手柄プレーが年の瀬に飛び出した。

 [2008年12月31日8時40分

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