<中日3-2広島>◇5日◇豊橋

 地元のヒーローが決めた!

 愛知・豊橋出身の中日藤井淳志外野手(33)が、2-2でもつれた延長11回、今季2号となるプロ初のサヨナラ弾を右中間へ運んだ。チームは今季3度目となるサヨナラ勝ちで連敗を3でストップした。地元を愛する男が劇的な幕切れを演出し、自力優勝の可能性が消滅する危機を救った。

 打球を見届けた藤井が力強く両手を突き上げた。引き分けもちらついた延長11回。1死走者なし。広島中田の2球目チェンジアップをフルスイングですくい上げた。「感触はよかったけど、入るかどうか微妙だった」。半信半疑でボールを見つめたが、間違いなくボールはスタンドに飛び込んだ。一塁ベースを回ったところで、喜びを爆発。地元豊橋出身の背番号4が最後はすべてを持っていった。

 一塁ベンチ前で行われたインタビューは異様な盛り上がりだった。観客の「フジイコール」を浴びたヒーローは「この場でここに立てることが光栄です。よかったです!

 最高です!

 幸せです!」と思わず絶叫。球場から出る際は花束を抱えて拍手で見送られるというワンマンショーだった。

 豊橋東では甲子園を夢見て泥にまみれた。筑波大からNTT西日本と歩んだ野球人生の原点が、ここ豊橋だ。ただ、地元ということもあり、シーズン1度きりの豊橋開催は、大きな期待がかかる。そんなプレッシャーもあったのかこの試合まで豊橋では10打数無安打と空回りしていた。オフに野球教室で地元に帰省した際も「来年こそは…」と声をかけられていた。

 呪縛を解いたのは6回の守備だった。2死からキラの右翼越えかという鋭い打球をジャンピングキャッチ。これで緊張がほぐれたのか、7回には豊橋14打席目で初ヒットとなる左前打。「僕が1年で一番声援を受けられる場所なので、ありがとうございます!」。ついにヒットが生まれると、プロ初の劇弾を放った。

 谷繁兼任監督は藤井起用について問われ、きっぱりと言った。「僕は地元だから(起用する)というのはないです」。状態を見極めてメンバー表に藤井の名前を書き込んだ。左足首捻挫から平田が1軍に復帰。好調をキープする松井佑ら、外野手争いは激しい。そんな状況で期待の男が自力V消滅の危機を阻止。指揮官は「連勝、連敗もいつかは止まる」といつものように冷静だった。最後まで上位チームに食らいつく。【桝井聡】