<阪神10-5ヤクルト>◇29日◇甲子園

 ミラクル、のち、恵みの雨~。新井良抹消の危機的状況に、プロ14年目の狩野恵輔外野手(31)が今季初昇格で即先発。約2年ぶり1発となる2ランに5シーズンぶり猛打賞の3安打4打点と活躍し、6回までに10得点!

 5点差とされ呉昇桓がリリーフカーに乗った9回表無死満塁で降雨コールドの幕切れ。激しくミラクルな白星で再出発だ。

 「おかえりなさい」。「待ってたで

 狩野」。甲子園のスタンドでプラカードが大きく揺れた。1年ぶりの1軍舞台、狩野が最高の結果で声援に応えた。

 「打った球種を覚えていないくらい必死でした。チャンスだったので、ファウルや空振りを恐れず思い切ってスイングした。最高の結果になってくれてよかったです」

 2-0の3回だ。2死二塁。初球、ヤクルト赤川の高めに浮いた変化球をたたいた。低い弾道のまま左翼席に飛び込んだ。狩野は表情を変えずにダイヤモンドを1周。ベンチ前で笑顔のチームメートとハイタッチを交わすと、表情が一気に崩れた。12年8月31日広島戦以来の本塁打。自力優勝の可能性が消えたチームにとっても起死回生の1発をお見舞いした。

 「ファームでしっかりやってきた。この首位と僅差で戦っているときに呼ばれて、結果を残すことができて本当によかった」

 今か今かと待ちわびた1軍戦線だった。12年オフに腰痛で育成選手契約となった。リハビリを重ね、昨年7月に支配下登録。プレーに不安はないが、それでも2軍戦で出番は限られた。遠征には同行せず残留練習の常連。打撃練習の時間は長く、灼熱(しゃくねつ)の鳴尾浜でバットを振る。汗だくになりながら「結果を出し続けるしかないんでね。ただそれだけだよ」と淡々と口にした。

 14年目の「転機」はあった。春季キャンプから掛布DCのアドバイスで「がに股打法」を取り入れる。少し左足のつま先を投手に向けた。結果は出た。準備は万全だった。「勝負してきます」。掛布DCに言い残して鳴尾浜を後にした。

 前日28日に東京ドームで新井良が腰痛のため離脱した。この日、出場選手登録抹消された。一気に手薄になった右の外野で、急きょ代役を託された。即スタメンで、昨年9月7日巨人戦以来の先発出場。和田監督は「期するものがあったと思うけど、ここまでチャンスがない中で気持ちを切らずに準備していてくれた。それがなければいきなり使って結果は出せない」と満を持しての起用だった。

 巡ってきたチャンス。第1打席には右前打、4回には2点適時打も放ってみせた。9回、急な大雨でコールドの幕切れ。お立ち台まで幻になったが、誰よりも存在感を示した狩野がヒーローだ。「神様はいるなと思ったよ」。苦労人が甲子園を駆けめぐり、逆転優勝の夢をみさせた。【宮崎えり子】<ミラクル男・狩野アラカルト>

 ◆初安打が

 プロ7年目の07年4月20日の巨人戦(甲子園)。延長12回に3点を勝ち越されたその裏、巨人豊田を攻めて同点としてなおも2死満塁。シーズン初打席の代打狩野が左前にサヨナラ打を放った。

 ◆翌日も

 続く21日巨人戦で先発し、4回に巨人久保からプロ初本塁打。初猛打賞も決めた。22日にも2戦連発の2号2ラン。

 ◆初代M-1

 正捕手矢野が右肘痛で出遅れた09年は捕手で122試合出場。打率2割6分2厘、5本塁打と活躍し、真弓監督が選ぶ若手成長株のグランプリを能見とともに受賞。賞金1000万円を山分け。

 ◆コンバート

 城島を獲得した10年から外野を兼任。11年から外野手登録となった。

 ◆育成契約

 腰痛などで昨季は育成契約。同年7月23日に支配下登録にかえり咲いた。