サッカー日本代表のW杯カタール大会アジア最終予選。オーストラリアに勝ったことで空気が一変したような雰囲気があるが、まだ4試合しか終わっていない。過去のデータなどでは判断しきれないのがスポーツであり、W杯予選だと僕は思う。

だからこそ、オーストラリアに勝って空気がコロコロと変わる世論に流されてはいけない。ここから全勝することもあれば、全敗することだってある。それくらい何が起こるかわからないのが今の日本サッカーの現状だと考える。その中で僕がどうしても気になるのは、現役Jリーガーたちだ。

僕が目にしてないだけなのかもしれないが、この現状にコメントを出したり意見を述べたりする選手がほぼいないように感じる。今こそ日本サッカー界のど真ん中にいる当事者意識を持つべきなのは現役Jリーガーたちではないだろうか。 W杯に行けなければ、サッカー界への注目度は薄れていく。ごく一部のファンとサポーターだけが応援をし、社会からどんどん離された陸の孤島となってしまう。これは極端な話ではなく、実際に起こっている現状でもある。

最近、多くの経営者の方々と関わらせていただく機会が増えた。そこにはスポーツに興味のない経営者もたくさんいる。そんな方たちと話す中では、サッカーの話題はほとんどでない。上場企業の経営者からは、サッカーというスポーツに何かを期待している感じをあまり受けない。一方で、クラブの取り組みに対して応援したいという人は多く、そこはサッカー界が新たに目指すべきビジョンとなるのではないかと思う。

世界的に見ればサッカーはグローバルスポーツだが、日本で考えるとそうとも言い切れない現状があるのだと感じている。そこで改めて思うのは、こういう時にこそ現役Jリーガーが声をあげる必要があるということ。これはオリンピックの時もそうだったが、アスリートが現状に対して声明をなかなか出さない。文句や批判などといったものを期待しているわけではない。プロアスリートとして、伝えなければならない現状や未来があるのではないかと僕は思っている。

アスリートは少なからずその競技の当事者であり、特に各競技のトップでプレーしている人たちには未来のスポーツ界を担っているという責任がある。僕は「プロは競技でいいプレーを見せていればいい」という時代はとっくに終わっていると考えている。

日本のスポーツ界は教育が土台で、アスリートの中には「上ににらまれたら試合に出られない」という潜在意識が染み付いてしまっている。これは日本の社会と同じで、内部告発をした人間が辞めさせられて、見て見ぬふりをした人が会社に残るのと同じ現象だ。

W杯に出場できなくなって一番困るのはスポンサーでも日本サッカー協会でもない。その影響を最も受けるのは現役Jリーガーだろう。W杯に行けなければ世界ランキングも下がり、併せて日本サッカーの価値も下がる。この状況を自分ごととして考えられないJリーガーが問題だと思っている。

もちろん全てのJリーガーではないが、こういう時こそ日本サッカーの未来の当事者として意見を言える選手が必要になる。日本サッカー界の衰退に伴って自分のセカンドキャリアも難しくなっていくことにはうすうす気づいているはずだ。どこか「対岸の火事」となっているこの現状を変えなければ、本当に日本サッカー界は衰退していってしまう。

大事なのは「自分さえ良ければいい」「今さえ良ければいい」という考えから脱却し、未来を見据えてこんなリーグを残したいと思える、その思考から行動が生まれるべきなのだ。Jリーグが無ければJリーガーは誕生しない。少なからず、現役Jリーガーたちはその恩恵を受けている。ならば、その思いを後世に残していくことも併せて自覚する必要があると思う。

オーストラリア戦後に田中碧選手が語ったコメントには、彼がその試合で決めた素晴らしいゴール以上に感動を感じさせるものがあった。

「子どもたちにW杯で戦っている日本代表の姿を見せたい」

そう語った彼の思いはまさに日本サッカー界の当事者としての言葉だった。吉田麻也選手が覚悟を持って戦うと言ったあの思いも、当事者意識からくるプロフェッショナルな言葉だと思う。

ただ何度も言うが、日本サッカー界の未来を担う当事者としては現役Jリーガーも同じ。今の自分の立ち位置や来年の契約、他クラブへの移籍などだけを気にしていると、知らず知らずのうちにそんなことすら考えられなくなる状況に陥る可能性は高い。

僕はJリーグという舞台があったからこそ挑戦者になれた。実績など残せていないが、挑戦者として日本サッカー界へ当事者意識を持って挑んでいた。その最先端にいるJリーガーたちにはもっともっと当事者意識を持ってもらいたいと思う。Jリーガーが本気になって「日本代表を応援しよう」「選手よ、もっと覚悟を持ってこうしよう」など声明を出せば、もっともっと強い結束力を持ってこの難局を乗り越えていけるはずだ。ファンやサポーターにお願いするのではなく、Jリーガーがまずは一番のサポーターとなり、日本サッカーの未来を考えるべきだと僕は思う。


◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設。21年4月に格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。8月27日に同大会で第2戦に挑み、2戦連続でKO勝利。175センチ、74キロ。

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)