元V6の岡田准一さんが8月にアメリカ・ラスベガスで行われたブラジリアン柔術の「ワールドマスター柔術選手権」に出場した。初戦を見事に突破し、2回戦で惜しくも敗れてしまったが、戦い振りを相手選手が絶賛した様子などが各メディアで取り上げられた。 僕は正直、結果にはあまり注目していなかった。何よりも岡田さんの格闘技との向き合い方に興味があった。

本業は俳優。格闘技を始めたきっかけは、自身が主演を務めたフジテレビ系ドラマ「SP 警視庁警備部警護課第四係」だという。調べてみればこのドラマは2007年放送。そこから出会って格闘技と向き合って、その16年後には大会にまで出る実力になっていることが本当に見事だと思う。

彼のドラマや映画を見るのが好きでいくつか作品を知っているが、そのどれにもアクションがあり、自らのこだわりによってそのシーンを演じているように伺える。僕が偉そうに演技について語れることはないが、わずかな経験者として言えることはアクションシーンはまぁまぁガチンコである。

先日、テレビ朝日で放送されているドラマ「ノッキンオン・ロックドドア」に用心棒役として出演させてもらった。その時は格闘シーンを何パターンも撮り、その度に地面に体を打ちつけられながらやっていた。リハーサルでは下にマットを敷いてくれるので思いっきりいけるが、実際本番になればマットもなければ相手も遠慮なしにくる。金的を受けるシーンもやったが、しっかり入ってもん絶クラスの衝撃だった(笑い)。

もちろん、リングの上の方が命の危険もあるし、痛みも計りしれない。とはいえ、プロとプロがガチンコで演技をする現場の緊張感はすさまじかった。失敗できないという空気感ではなく、いかにリアルをそのまま出すかという研ぎ澄まされた感覚だった。そんなことを何十年もやる中で、本物の格闘技を習い、学び、実践している岡田さんを僕はリスペクトする。

そして何よりも考えさせられたのは、彼は自分の人生の「道」を極めようとしているのではないかということ。強くなりたいとか、演技がうまくなるためにとか、そういう何かのためではなく、純粋に自分の人生という道と向き合い、自分がそこにどのような趣を持ち、挑んでいるか。格闘技(柔術)と向き合うことで、人間の可能性を最大限に引き出し、限界への挑戦をしているように思える。

僕の中でも格闘技を職業とは思っていない。強くなるとか、うまくなるとか、そこだけを求めているのではなく、限界に挑戦することで見つけられる人間の可能性に触れたい。僕にとっての格闘技は「自分道」を見極めていくための道標なんだ。

岡田さんの挑戦を見て改めて強く認識した。僕ら人類はその昔、神様が心の支えの時代があった。そして気がつけば、経済の発展と共に、お金が心の支えになっている時代に突入している。持っているお金で人と比べて安心したり不安になったり、通帳の数字を見てニンマリしたり、焦ったり。この時代が悪いとは言わないが、資本主義の奴隷になり、お金が何よりも重要で、それで人の価値を計るようになった。

ふと思うと、他人の豪邸を見て何がそんなに面白いのか。そんな番組がたくさんあるのはなぜなのか。自分の中の心の支えがお金になっている証拠なんだと思う。悪いとは思わないが、いいとも決して思わない。これから先、自分の息子や娘が生きていく時代とその子どもたち(孫世代)が生きていく時代がすごく薄っぺらいものを信じていきそうで怖い。

僕は、ここからは「自分らしく生きる」ことが心の支えになる時代になるのではないかと思っている。そのためには自分の道、心の道を究めていくことが何よりも大事になる。岡田さんにように、本業がありながらも、格闘技と向き合い、その中で数多くの精神に動きを感じているはず。

その精神が作り出す心。その心には日本人が元来持っている武士道的なものが残っているはず。他者を敬い、こうべを垂れ、心を通わすことが美でもあった時代がある。もう1度、日本人らしさを取り戻し、世界の中で日本という国が誇らしくいられるためにも、僕らはいま一度自分の道と向き合うことが大事だと感じている。

格闘技はそういう自分の人生の道をしっかりと歩むには最適なものだと思う。その道が見つかるからこそ、自分らしくが何かに気がつける。自分らしくは外的や欲や損得の中では見つけられない。そんなものを大きく超える空間が格闘技にはある。

岡田さんが向き合い続けている格闘技。大会に出て世の中にその素晴らしさがしっかりと伝わってくれるといいなと思う。僕も同じように格闘技と向き合っている身として、自分の道を戦いの中からしっかりと見いだしたい。お金のためや強くなるため、存在証明のためにやっているわけではない。

ちまたでは、格闘技を使って成り上がろう、のしあがろうと躍起になっている人たちがいるが、その本質を見失わないでもらいたいと思う。だからこそ僕は格闘技の本当の魅力をしっかりと伝えて、その格闘技から心底学べる自分道を究め、限界を見極め、無限の可能性を伝え続けていきたい。

大事なのは年齢じゃない。そこで自分が“自分らしさ”を思いっきり表現できることだと思っている。


◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。22年2月16日にRISEでプロデビュー。プロ通算2勝1分け1敗。175センチ

元年俸120円Jリーガーで格闘家の安彦考真
元年俸120円Jリーガーで格闘家の安彦考真