流した涙に、自覚と決意がにじんでいた。
プロレスリング・ノアの若きエース、清宮海斗(25)は8日、横浜アリーナで行われた団体約5年ぶりとなった新日本プロレスとの対抗戦で、かねて対戦を熱望してきたIWGP世界ヘビー級王者オカダ・カズチカ(34)とタッグマッチで対戦した。新日本のトップ選手たちに高い打点のドロップキックを見舞うなど、メインにふさわしい攻防を繰り広げたが、最後はオカダのレインメーカー(短距離式ラリアット)に沈んだ。勝敗が決した後も、リング上でうつぶせになって、人目をはばからず号泣。対戦相手からは「こんなことで泣いているんじゃねえ! さっさと帰れよ」と、活を入れられる場面もあった。
それでも、止まっているわけにはいかなかった。2日後の横浜大会、ノアのマットに上がった清宮の顔は、晴れ晴れとしていた。試合後に、表情の理由を「泣きすぎたから。止まんないくらい泣いたからもう出ない」と笑顔で説明。「いろんなことを痛感した。でも、今年は本当に止まっていられない。ノアのために今年はやっていくので!」と力強く宣言した。
ノアのプロレスが、物心ついたころから大好きだった。レンタルビデオ店で自身で初めて借りたビデオテープは、ノア。幼少期からノアのプロレスラーになりたいと憧れ、高校時代はあえて部活動に入部せず、自主的な筋トレに時間を割いた。
「『プロレスラーになりたい』と話すと、周りからは決まって『新日?』と聞かれたんです。目立っている団体が一番強いって思われてしまうのは仕方がない。でも、俺はノアの戦い方が好き。その魅力をたくさんの人に届けたいと思いました」
何度危機にひんしても立ち直るノアのプロレスに、こだわりを持ち続けてきた。だからこそ、団体の顔として、腐っているわけにはいかないという自覚があった。8日の試合後には、オカダに「悔しいなら新日本に来ればいい」と武者修行を提案された。だが「世の中が広いとしても、俺はここを大事にしていく」と言い切った。
新日との対抗戦では、力の差を見せつけられた。元日の武道館大会では、GHCナショナル王者拳王に挑戦を跳ね返された。それでも、「今年は自分の年にする」という意志は固い。
「今までは武藤さんや小川さんと、キャリアを重ねている人がノアを引っ張ってきた。そこを変えていかないといけない。それは、上の人たちがいなくなってからじゃ意味がない。俺がノアの現状でスタートから持っていくので、楽しみにしていてください」
流した涙を、必ず成長の糧にする。【勝部晃多】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)