道をそれてもまた戻ればいい。ボクシングの取材を通じてまた、いい出会いがあった。新人王西軍代表戦のスーパーフェザー級を制し、12月17日の全日本決勝(後楽園ホール)に進む大谷新星(21=真正)は、18歳の時に過ちを犯して少年院に入りながら、ボクシングで人生の“やり直し”に成功した1人だ。

小学2年から井岡ジムでボクシングを始めた。ただ、「ボクシングが嫌いだった」と親に言われて、いやいや通うものだった。中学卒業と同時にジムから足は遠のいた。就職して工場勤務も続かない。「自分の意志が弱かったんです。何をやっても長続きしなかった」。もやもやを抱えた心は次第に暗闇へ。強盗、傷害などで少年院に入った。

今なら18歳は成人年齢。選挙権を得て、立派な大人として扱われる。そんな年になり「何をやってるんだ俺は」とわれに返った。母親がそっと差し入れてくれたのが元WBC世界バンタム級王者辰吉丈一郎の自伝。50歳を過ぎた今も「現役ボクサー」として生きる。そんな生きざまを「かっこいいじゃないですか」。もう1度、「ボクサーになろう」と心を決めた。

再出発は真正ジムの門をたたいた。元世界3階級制覇王者の長谷川穂積らを育てた山下正人会長(60)の厳しい指導はうわさに聞いていた。「そういう環境でないと、自分は甘えてしまう。(元暴力団担当の警官だっただけに)気持ちも理解してくれる」。一から鍛え直し、ここまで4戦4勝(3KO)で、全日本新人王に王手をかけた。

かつてはやんちゃを重ねてきたのだろう。しかし、今は研ぎ澄まされた肉体を保持し、取材においても質問に丁寧に言葉を返す。同じくくりにはしたくないが、かつて猛烈にやんちゃしていた矢吹正道は世界王者、弟の力石政法も現・東洋太平洋王者で、今や荒れていたころの面影などかけらも見せない。

気持ちのはき出し方が分からない。それぞれにいろいろな要因があって、荒れた道に踏み外すこともあるだろう。そこからいかに早く気づき、自分で道を修正できるか。出会った3人はいずれも、ボクシングに光を見いだした。

「悪かった」から、人の痛みも分かる。そんな柔らかさを大谷からも感じ取った。

大谷は西軍代表戦で逃したMVPを後楽園ホールにとりにいく。「大振りではなく、倒すパンチを磨いていきたい。今回はいい経験ができた。荒れていた時期も、それがあっての今。全日本でMVPをとります」。新たに出現した“元ヤン”ボクサーの今後も追いかけたい。【実藤健一】