九州場所で十数年ぶりに相撲担当に復帰し、フル参戦した。休場力士が相次ぎ、横綱白鵬が楽々と43回目の優勝で今年の締めくくり。どの世界でも、活性化に必要なのは世代交代であり、新たなキラ星の台頭といえる。白鵬盤石の牙城を崩すのはだれか。2020年に期待を抱かせる存在は、少なくとも確認した。

夏場所で初優勝を飾り、新小結の九州場所でも11勝をあげた朝乃山は、その筆頭株だろう。個人的に期待したいのは、同年代の小結阿炎だ。九州場所は序盤の出遅れが響いて、9勝にとどまった。しかし、そのスケール感から常に2桁、優勝争いに加われる素材と感じている。

他の担当記者に聞くと、これまでは勝ちにこだわった引き技、立ち合い変化が目立ったという。しかし、九州場所ではとにかく「前」にこだわった。負けた相撲でも「攻める相撲が取れている。負けたからってへこむ内容じゃない」と前向きに捉えることができた。基本は突き、押し。上の番付を意識して、引きたくても我慢して前に出る相撲の意識付けを徹底してきた。

187センチの長身で手足も長い。四つ相撲でも十分に出世しそうだが、現役時代に高速回転の突っ張りで場内を沸かせた元関脇寺尾の錣山親方が、前に出る、攻める相撲を徹底させているのだろう。

九州場所前にインスタグラムへの不適切な投稿で炎上し、八角理事長(元横綱北勝海)に謝罪する“事件”もあった。役力士として自覚の欠如だが、反省して2度繰り返さなければいい。九州場所でも連日、満員御礼で相撲人気を実感した。ただ、かつての空前の若貴ブームも、上りきってから下降線の時代をへてきた。「お客さん」を引きつけるのは、何より力士の「個」。阿炎には魅力的なお相撲さんに育ってほしい。(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

11月11日、九州場所2日目で懸賞金の束を手に土俵を引き揚げる阿炎
11月11日、九州場所2日目で懸賞金の束を手に土俵を引き揚げる阿炎