14日に初日を迎えた大相撲春場所(東京・両国国技館)で、珍しい事象が起こった。

初日の十両以上の取組35番で、1度も「寄り切り」の決まり手がなかった。「寄り切り」は相手と組んで、前か横に進んで土俵の外に出して勝つ決まり手。日本相撲協会公式ウェブサイトによると、82手ある決まり手の中で、過去5年間で最も多く、全体の25・3%を占めた。春場所初日、いわば最も“ポピュラー”な決まり手が出なかったことについて、取組後の決まり手を判断する「決まり手係」を務める、大山親方(68=元前頭大飛)に15日、話を聞いた。

この道30年以上の大山親方でも、十両以上で「寄り切り」が出なかったことは「初めて聞きました。珍しいですよね」と驚きを隠せない様子だった。

昭和では「寄り切り」が決まり手の半数を占めていたが、近年は「押し出し」の比率が高まっているという。協会公式サイトでは「押し出し」を「両手または片手をはずにして、相手の脇の下や胸に当て、土俵の外に出して勝つこと。相撲の中でも全ての基本となる技です」と紹介。18年に初めて「押し出し」が「寄り切り」を上回り、過去5年間でも「寄り切り」とほぼ同じ割合で全体2位の25・2%となっている。

春場所初日の事象について大山親方は「たまたまだと思います」と前置きしつつ「突き押しが増えてきましたよね」。四つ相撲の力士よりも、押し相撲の力士が増えてきた実感があるという。

その傾向について、大山親方は近年の力士の大型化が最大の理由と分析する。今場所の幕内力士42人の平均体重は160・2キロ。30年前の91年1月は149・1キロ、10年前の11年1月は154・7キロで増加傾向にある。時代の変化により栄養学の理解が深まったことや、トレーニングの発達で筋肉をつけやすくなったことで、馬力を生かした取り口が増えてきたことが要因とみられる。

大山親方は体重増の影響について「いい面と悪い面がある」とした。

「いい面」は「体が大きいと見ている方も迫力がある」こと。互いの体重が増えれば、相撲の醍醐味(だいごみ)であるぶちかましの衝撃も大きくなる。

「悪い面」は「動きが鈍くなってしまう」こと。体を支える下半身にも負荷がかかり「けがを恐れているのか、今の力士は稽古量も減っている」と同親方。「現役のときの北勝海関(現八角理事長)は横綱になっても、ぶつかり稽古で(兄弟子で元横綱の)千代の富士関に何度も転がされた。地位が変わっても稽古量は減ることはなかった。今の力士は土俵下でのけがが多い。新弟子のころに転がされても、関取になった頃にはぶつかり稽古の量が減って転び方を体が忘れているんじゃないか」。体重が重いと「つり出し」や「うっちゃり」など相手の軽さを利用した決まり手も出にくくなり「偏りが出てしまう」と懸念した。

一方で力士の平均体重が増している時代だからこそ、小兵力士の存在感は際立っていきそうだ。幕内では最近でも先場所技能賞を獲得した171センチの翠富士や、昨年秋場所で175センチの翔猿が千秋楽まで優勝争いに加わって話題を呼んだ。今場所初日も人気力士の十両炎鵬が、千代ノ皇を相手に低さを生かして足取りを決めた。大山親方は「昨日の炎鵬も動き勝っていた。(相手の)下敷きになるとけがをするリスクもあるけど、あくまで私の考えだが、いろんな技が出ると、お客さんも見ていて楽しいのではないか」と注目していた。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)