大相撲の序ノ口力士、勝南桜(22=式秀)が、3月の春場所で90連敗を喫した。もう2年以上、白星がない。不謹慎ながら、対戦が決まった相手は戦う前から勝ったも同然、ラッキーだと思うのだろうなと勝手に考えていた。ところが違った。

春場所後、勝南桜と対戦したある力士に聞くと「すごいプレッシャーでした。絶対に負けちゃいけないので」と打ち明けた。その力士の師匠も「そりゃあ、プレッシャーですよ。負けたらヤフーニュースになってしまいます。相撲に絶対はありませんから」と話していた。意外な事実だった。

確かに、相撲に絶対はない。力の差があっても、実力上位が足を滑らせることもある。何が起きるか分からない。90連敗と言っても、その一番一番をよく見ると、かなり善戦している取組もあるのだ。

勝南桜は2015年九州場所で序ノ口デビュー以来、3勝224敗1休。最長の連敗記録を現在継続中で、次の白星は、これまでの3勝以上に注目されるだろう。

ここで思い出すのは、二子山親方(元大関雅山)の行動だ。以前、二子山部屋の力士が服部桜(現在の勝南桜)に負けた。二子山親方がまずやったことは、弟子をしかることではない。ほかの兄弟子らに連絡を入れ、こう言った。

「いいか、絶対にバカにしちゃだめだぞ。服部桜だって一生懸命稽古して、強くなっているんだ」

頭が真っ白になったであろう、その力士の気持ちを思いやり、相手も尊重した。その一番で負けた力士は盛り返し、その場所で勝ち越した。

私は4年前、勝南桜(当時は服部桜)が所属する式秀部屋の稽古を見たことがある。本場所では立ち合いの当たりを怖がっているように見えたが、稽古場ではその改善に努めていた。式秀親方(元幕内北桜)の熱血指導のもと、強度を徐々に高めながら頭と頭をぶつけ合ったりと、本場所を意識して稽古していた。内容も濃い。これを続ければ、もっと勝てると思えた。やる気も感じた。どうやら、稽古場の力を本場所で発揮できないタイプのようだ。

まもなく夏場所が始まる。幕内が最高レベルであることは言うまでもないが、序ノ口には序ノ口なりの意地や重圧がある。それを心の片隅に置きつつ、勝負を見守りたい。【佐々木一郎】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)