9月25日に幕を閉じた大相撲秋場所は、平幕の玉鷲が昭和以降最年長優勝を果たすなど鉄人ぶりを見せた。

横綱照ノ富士は途中休場し、大関陣や三役陣らは振るわず、平幕力士らが優勝争いを引っ張った。初優勝を狙う力士も多く、中でも初日から9連勝と勢いに乗っていた西前頭8枚目北勝富士(30=八角)の奮闘は目立った。

8日目に自身初の“中日勝ち越し”を決め、9日目にはここ直近の場所で存在感を出している若元春を下して9連勝とした。さぞ体の調子も良く、精神的に波に乗っているだろうと思い感想を聞くと「実は精神的にも肉体的にきつかった。勝ち越しなのに余裕がないというか」と振り返った。

意外な答えだった。連勝が続くと前向きな気持ちを口にする力士がほとんどなのだが、北勝富士はそうではなかった。では、なぜそう思ったのかを聞いた。

北勝富士 自分の場合はいつもなら11日目とか13日目とかぐらいに勝ち越しが決まる。連勝を続けるのは難しいし、場所終盤に何とか勝ち越せることが多い。だけど今回は初めて初日から8連勝して8日目に勝ち越しが決まった。だから「まだあと7番もあるの?」という気持ちになってしまった。やっぱり初日から当たり前のように連勝する横綱や大関のすごさを身に感じました。

どの力士も、まずは勝ち越すことを一番に考える。横綱、大関陣らはさらにその先の優勝争いを見据えて土俵に上がるだろうが、平幕力士はまずは勝ち越して番付を上げ、三役を目指す。もちろん、優勝を狙わない力士はいないが、やっぱりまずは勝ち越すことが大事だ。三役経験者の北勝富士も秋場所は平幕として臨み、返り三役に向けてまずは勝ち越し、というのが一番にあったはず。

そういった心境で臨み初日から9連勝した。自身最速で勝ち越しを決めたのは喜ばしいことだが、次にのしかかるのはいつ黒星を喫してしまうのかや、優勝争いへの重圧などだ。結果、初黒星を喫した10日目から3連敗するなどし、14日目に優勝争いから姿を消した。1つの目標である勝ち越しを決めたとは言え、北勝富士にとっては苦難の場所だったようだ。

しかし「今場所は勉強になりました。この年になっても学ぶことはまだあるんだなと思った」と1場所を通して、新たな発見があったという。強豪の埼玉栄高から日体大に進み、15年春場所で初土俵を踏んで7年。7月に節目の30歳を迎えた実力者の北勝富士は、秋場所の経験を糧に、さらなる高みを目指す。【佐々木隆史】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)