その特異な長所が、長所であるには、今日の相手は「ボクサー」過ぎたか。

 「あれがボクシングの動きですよね。自分とは違うところですよね。自分はまだボクシングは6年目なんで」。

 試合後の控室で、興奮気味に、けれん味なく、3-0の判定勝ちで3度目の防衛戦に成功した尾川堅一(28=帝拳)が言った。椅子から立って、そこから解説。「僕のは日本拳法の間合いなんですよ」と、ちょっと記者から1メートルほどか、遠くに立つ。「この距離から大きく踏み込んで、パンチを打てる」。記者の面前に一気に迫った。

 それがこの日で21戦20勝(16KO)1敗とした金髪の好漢の強み。2歳から習った日本拳法は、小学時代に全国優勝、明大ではインカレ団体制覇、個人では全日本4位。競技は体重無差別で、勝利の9割はパンチ一閃(いっせん)。右の拳で、「ヘビー級」だって沈めてきた。可能にしたのは、間合いを一気につぶす大胆な踏み込みだった。

 11年に全日本新人王に輝き、キャリアも十分に積んできた。それも「僕の強みは最初から、ガンと踏み込んでの右ボディー」と言える、拳法仕込みの一撃があったから。ただ、やはり飛び込んでいる世界はボクシングには違いない。「拳法だと一発で終わっちゃうんですけど、今日みたいな時は…、ね」。相手のレベルが上がり、やはりボクシングに出合うことになった。

 例えば、それがこの日の相手、内藤律樹(25)。父カシアス内藤譲りの目、反射神経は「パンチをもらわないで、パンチを当てる」常道を行く。尾川が「ガン」と踏み込んで腹にパンチを見舞っても、そこからの返しの左を振れば、すっと体を漂わせて、正面から逃げる。2発目、3発目はもらわない。必然に、単発、単発が続く。「一発決まっても、そこからが続かない。内藤君もうまいので、かわされちゃいますよね。僕はその動きを止めて、打ち込んでいかないといけないんですが。まだボクシングを勉強中だから…」。屈託がない王者の本音。親から受け継ぐ純粋なボクサーだった挑戦者を退けた、異端な王者の本音だった。

 昨年12月に、内藤からもぎ取った日本タイトルを3度守った。だが、決して「次は世界」と胸を張って言える結果ではない。拳法家の長所は、「まだ6年目」のボクサーには、十全な長所としての地位を確立できていないのは、十分にパンチ当てられないからこそ「守りに入っちゃった」と反省した当人が痛感しているだろう。ただ、特異さは特別であることは不動でもある。

 日本拳法とボクシングの最良の調和はどこか。いつそれが現前するか。それを待ち続ける時点で、すでに尾川堅一の「ボクシング」は面白い。【阿部健吾】