ボクシングのWBC世界バンタム級王者山中慎介(34=帝拳)が倒して2つの日本記録に並ぶ。9日、挑戦者の同級1位ルイス・ネリ(22=メキシコ)との15日のタイトル戦(島津アリーナ京都)に向けて都内のジムで練習を公開した。V13達成なら世界戦連続防衛の日本記録に並ぶ大一番。KO勝利なら世界戦で10度目となり、内山高志の日本記録にも並ぶ。引退を表明した内山、三浦隆司と同世代の王者として、衰えぬ雄姿を見せる。

 今年一番の暑さ。37度の外気がこもる都内ジムは、一層の熱気を集める。山中が補給する水分は2リットル。それでも約2時間の練習で体重は3キロ減る。大粒の汗が途切れないその口元に、本心を乗せた。「正直ちょっと寂しかったですね、あの2人は」。先月引退を発表した内山、そしてジムの後輩だった三浦。階級は違うスーパーフェザー級だが、世界王者となった同じ30代。「同じ時期にチャンピオンをやらせてもらいましたしね。(自分は)いまなお強い姿を見せられたら」。時代の動きに心を砕きながら、使命感に燃えた。

 記録にはこだわりはない。ただ、健在の証明にはうってつけの機会でもある。具志堅用高に37年ぶりに並ぶ13度目の防衛が注目だが、世界戦で積み上げたKO数はその具志堅と同じ9回。唯一上にいるのが内山だ。「多少こだわってもいい。力みにつながらなければいいんですけど、もともと1発1発力んで打つタイプなので、そんなに影響はない」。“神の左”と称される左拳ならKOへのこだわりも障害にはならない。

 この日から初のテレビCMも放送開始となった。頭皮ケアシャンプー「スカルプD」のCM。「話しているところは棒読みですけど」と苦笑したが、試合では「棒」立ちなしでKOを呼び込む。中間距離から回転力ある連打が威力あるネリに、「足を止めない。要所で自分のタイミングで打ち込む。シンプルです」と青写真を明瞭に描く。

 22歳の挑戦者は13人目で最年少。「勢いか自分の経験か。どちらが勝るのか、試合でお見せしたい」。したたる汗をぬぐい続けた口元を結び、ひとつうなずいた。【阿部健吾】