GHCヘビー級王者、武藤敬司(58)が、挑戦者の丸藤正道に敗れ、3度目の防衛に失敗した。

勝負に出た大技が王座陥落を招いてしまった。終盤コーナーに上り、ムーンサルトをさく裂。場内からは大きな拍手が沸き起こり、勝利が見えたかと思われた。ところが膝を強打してもん絶。チャンスと見た丸藤から連続の膝蹴りを受けるなど逆襲に遭い、最後は虎王・零で沈められた。2度の前哨戦では足4の字固めで丸藤を沈めるなど好調を維持していた。「コンディションよく(試合が)できるかは、腕の見せどころだよ」などと余裕を見せていたが、3度目は仕留められなかった。

18年に両膝に人工関節を入れ、翌年に復帰してからはムーンサルトを封印してきた。「技を少なくしても魅了するスタイル」でケガと向き合いながらリングに立ち続けた。

今年に入ると「(膝の)調子は良くなってきている」と話すほど膝の調子は良くなっていた。初戴冠となった2月の日本武道館大会ではコーナーに上ってムーンサルトの構えを見せるも自重。「行こうと思ったけど、恐怖心からか、体が反応しなかった」と振り返っていた。代償こそ大きかったが、この日、3年ぶりの大技に挑んだことは、武藤の状態の良さを物語っている。勝利した丸藤も「8割くらい押されていた。勝ったが、武藤敬司を何一つ超えられたと思っていない」と58歳の強さを認めた。

試合後武藤はセコンドに支えられながら、険しい表情で引き揚げた。終始攻め続けていた中での敗戦。悔しさからか、バックステージにも現れずノーコメント。2月に初戴冠してから4カ月間守ってきた王者からついに陥落したが、武藤の存在感は色あせてはいない。【松熊洋介】