王座奪還で歓喜の雄たけびを上げる。総合格闘技のRIZIN35大会が17日、東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで開催される。フェザー級(66・0キロ)タイトルマッチでは、秋田県能代市出身の斎藤裕(34=パラエストラ小岩)が挑戦者として、昨年10月の防衛戦で敗れた現王者の牛久絢太郎(27=K-Clann)と再戦する。逆襲を誓う斎藤が、チャンピオンベルトにかける思いや試合の意気込みなどを語った。【取材・構成=山田愛斗】

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止まっていた時計の針が動きだす。昨年10月24日のRIZIN31大会で、初代フェザー級王者だった斎藤は、牛久との防衛戦に臨み、まさかのTKO負け。その175日後となる今月17日にリベンジのチャンスがやってきた。「タイトルマッチは自分がやりたくてできるものではないので、今回は巡り合わせが良かったんですが、『ここは落とせない戦いだな』と強く思っていて、気持ちは入ってきました」。その上で「単純に同じ相手に2度も負けたくないというのは、すごくありますよね」。きっちり借りを返すつもりだ。

「チャンピオンがいて、興行や階級の流れがあってという中で、タイトルマッチをできる保証はなかなかないですし、もし自分が今回間に合わずに別の選手が出場したときに、違う流れができるかもしれない。勝ち続けても次に挑戦できる保証がないので、できるときにやる、目の前にあるチャンスに飛びつかない理由はないかなと思います」

半年前の悪夢を払拭する。「I am THE CHAMPION」と銘打たれたイベントのメイン戦(5分3回制)。斎藤は1回から主導権を握り、初防衛へ上々のスタートを切った。しかし、2回終盤に牛久の飛び膝蹴りが右目上部にヒット。傷が深く、出血が止まらずに試合が中断すると、同回4分26秒でドクターストップがかかった。これまでのプロキャリアでKO、一本負けはなく、レフェリーに試合を止められるTKO負けも初めてだった。

「ベルトがかかり、勝ち負けで自分の人生が大きく左右される試合で、その場で『はい、そうですか』と簡単に認められるほど、かけている思いは軽くないですし、受け入れるのに時間がかかりました。できれば12月に再戦とか、次をすぐにやらないと気が済まないというか、そういう気持ちはずっと残ってました」

王座陥落から2カ月後。かつてフェザー級タイトルマッチで勝利した朝倉未来(29=トライフォース赤坂)との再起戦に臨んだ。同12月31日の同33大会。15分に及ぶ激闘の末、判定0-3で2連敗となったが、地元秋田で自身の試合が初めて地上波生放送された。「今までもいろんな反応がありましたが、大みそかに朝倉選手と試合して、反響の多さは過去一番でした」。朝倉とは1勝1敗。3戦目に期待する声もあり「いつになるか分からないですが、3度目はお互いが勝ち続け、機運が高まればあると思います」と受け止める。

大学卒業後の10年春に就職を機に上京した。当時は格闘家としてはアマチュアで、11年11月に24歳でプロデビュー。プロ10周年の昨年は1勝2敗と負け越すも、6月は東京ドームで戦い、10月はメインイベンターを務め、12月は大みそかのリングに初めて上がった。「自分の中では5年分生きたぐらいに頑張ったつもりです」。中身の濃い1年を過ごした。

がむしゃらに信念を貫き通した。「東京に出てきて『(仕事や格闘技など何かに対して)10年は頑張りたい』と思っていたんですよね。勝負しにこっちに来て、爪痕を残すというか、何も残せないまま秋田に戻るのは嫌だなと思ってました。とにかく必死に何かを残すために毎日一生懸命やってきました」。トップファイターまで成り上がった。

先月、秋田県誕生150周年記念事業で、秋田出身の著名人として東京・帝国ホテルでのイベントに招待された。壇蜜、漫画家の高橋よしひろ氏、山本酒造店代表の山本友文氏とトークショーを行った。「本当にご縁に感謝ですが、東京で頑張った12年がなければ、イベントに呼ばれることもなかったですし、意味のある12年間でした」と振り返る。

斎藤が未来を切り開く。牛久との再戦が決まった先月上旬の対戦カード発表会見で「自分のベルトを返してもらう」と発言。王座奪還への並々ならぬ覚悟をにじませた。

「ベルトを保持するということは、いろんな責任があったり、いろんな思いを背負って試合をしていくことにつながります。ああいった形で(10月のタイトルマッチを)負けてしまい、今年はもう1回やり直すというか、自分自身、ベルトを取り戻して戦うべき相手がまだまだいるので、そこの戦いに向かっていきたいという思いはありますね」

雪辱を果たす。今大会は「美しき復讐か、残酷な返り討ちか」がキャッチコピーだ。「今回のタイトルマッチは、とにかく勝ちにこだわって、しがみついてでも勝ちたいという気持ちです。『勝てば官軍』だと思っているので、ギリギリまで最高の準備をして、必ず勝って、みんなで喜びたいと思います」。半年前に果たせなかった「I am THE CHAMPION」の言葉をリングで証明し、王者に返り咲く。

◆斎藤裕(さいとう・ゆたか)1987年(昭62)10月8日生まれ、秋田県能代市出身。能代第二中、能代工(現能代科学技術)、日大工学部を経て11年11月にプロデビュー。プロ戦績は28戦20勝6敗2分け。修斗第10代世界フェザー級王者。RIZIN初代フェザー級王者。趣味は銭湯巡り。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。好きな芸能人は有村架純。大切にしている言葉は「信念」。173センチ、66キロ。