プロボクシング元4団体統一世界バンタム級王者の井上尚弥(30=大橋)が25日、4階級制覇を目指してWBC、WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン(28=米国)に挑む。

1階級上の無敗王者に勝てば、日本ボクシング史にも新たな歴史が生まれる。井上の挑戦を“記録”という視点で掘り下げた連載「井上尚弥 史上最大の挑戦」を3回にわたり掲載する。上編は、ファイティング原田の“幻の快挙”。

◇  ◇  ◇  

古きボクシングファンにとって、半世紀以上たった今も義憤に堪えない敗戦がある。1969年(昭44)7月28日のWBC世界フェザー級タイトルマッチである。フライ、バンタム級と2階級制覇したファイティング原田が、3階級制覇を目指して王者ジョニー・ファーメション(オーストラリア)に敵地で挑戦した。

2回に先制のダウンを奪った原田は、11回にも右フックで王者を倒し、14回には連打でダメ押しのダウンを追加。誰もが挑戦者の勝利を疑わなかったが、なぜかこの試合はレフェリーが1人だけで採点し、結果は1ポイント差で王者の判定勝ち。11回のダウンは“スリップ”とされた。

原田が勝っていれば史上5人目、戦後初の3階級制覇の偉業だった。当時はまだ“スーパー”クラスはなかったので、現在の階級制に当てはめると5階級目。最初のフライ級とフェザー級の体重差は実に6・35キロもあった。“不当な判定”は日本人が世界のボクシング史に刻むはずだった金字塔を、なきものにした。

あの失望の日から54年。井上尚弥がWBC、WBO世界スーパーバンタム級王者フルトンに挑む。勝てば日本人では井岡一翔に並ぶ4階級制覇だが、実は彼はフライ級を飛び級しているので、最初に世界王者になったライトフライ級から数えて5階級目。体重差6・37キロ。原田の“幻の快挙”以来のウエート差への挑戦になる。

原田は無尽蔵のスタミナと連打で階級差を超えた。5月にお会いした際に「開始から終了のゴングまで手を出し続けた。打ち疲れなんてなかったよ」と当時を振り返った。井上は一撃必倒の強打が群を抜く。「パンチが強く、入門当時からスーパーバンタム級が適正階級だと思った」と大橋秀行会長は明かす。

昭和の原田と令和の井上ではタイプも、時代背景も異なる。近年は世界王座が4団体に増えて複数階級制覇も珍しくない。それでも軽量級で、最初の戴冠から6キロ以上重い階級で世界王座を手にするのは今も難事に変わりない。井上が快挙を達成すれば、古いボクシングファンの義憤の記憶も、忘却のかなたになりそうだ。【首藤正徳】

 

◆複数階級制覇 世界ではオスカー・デラホーヤ(米国)とマニー・パッキャオ(フィリピン)の6階級制覇が最多。トーマス・ハーンズ、シュガー・レイ・レナード、フロイド・メイウェザー(以上米国)、ホルヘ・アルセ(メキシコ)、ノニト・ドネア(フィリピン)の5階級制覇が続く。日本の最多は井岡一翔の4階級制覇。