<ゼロワン:東京大会>◇15日◇東京・後楽園ホール

 元プロ野球巨人外野手でゼロワンの高野忍(34)が、親せきの盲目少女と恩師の激励に発奮して「プロレス初戦」を白星で飾った。巨人時代の弱点をインプットしたという謎のマスクマン、カツヤ・ID・ノムラの「IDプロレス」にもひるまず、胴絞めスリーパーで、わずか225秒で撃破した。左太もも筋膜炎を抱えていたが、テレビ番組で話題になった親せきの盲目少女と、母校箕島高の尾藤公元野球部監督の激励に応えた。2月14日の大阪大会で、空手家の小笠原和彦に異種格闘技ルールで勝利したのに続き、プロレス転向後2連勝を飾った。

 「プロレス」を体感する前に決着をつけた。空手着に身を包んだ高野が、開始から攻めまくった。ローキックでノムラをコーナーに追い詰めて、ボディーブローを連発。続くミドルキックでダウンを奪った。わずか1分足らずの速攻だ。怒ったノムラの急所攻撃にもひるまず、再び蹴り倒して最後は胴絞めスリーパーで1本勝ち。「前回より落ち着いて試合ができた」と余裕を見せた。

 デビュー2戦だが、プロレスルールでの試合は初体験。しかもノムラは「巨人時代の弱点をすべてインプットした」という不気味な覆面レスラー。さらに高野は肉体にも大きなハンディを抱えていた。2月14日のデビュー戦で負傷した左太もも裏の肉離れが治らず、筋膜炎のままリングに立っていた。逆境だらけだったが、どうしても負けられない理由があった。

 試合2日前、父の兄の孫にあたる立木早絵さん(16)から「頑張って」のメールが届いた。早絵さんは昨年8月に日本テレビ系列で放送された「24時間テレビ」で津軽海峡を泳いで縦断するリレーに挑戦した盲目の少女。高野の実家の斜め前に住んでいる。目が見えないのにピアノを弾き、自転車に乗り、パソコンもたたく。そんな早絵さんからの激励に「チャレンジ精神旺盛で会うたびに勇気づけられる。彼女に頑張れと言われたら痛いなんて言ってられない」と奮起した。

 恩師の言葉も支えになった。デビュー戦翌日の2月15日に母校箕島高にあさいつに訪れた。偶然、尾藤元監督と出会った。プロレス転向を告げると、あきれた顔をしながらも「まあ、頑張れよ」。身が引き締まった。母校は今年のセンバツで、高野が2年時に出場した91年以来となる甲子園出場を決めた。それも励みになった。

 会場の後楽園ホールは巨人時代の本拠地東京ドームに隣接しているが「東京ドームの思い出はない」と、もう野球に未練はない。「蹴りと突きのコンビネーションと受け身を磨いて、けがも治して、次も頑張りたい」。元G戦士は第2の人生で一旗揚げる決意だ。【塩谷正人】