<全日本:両国大会>◇27日◇東京・両国国技館◇2563人

 第64代横綱曙(44)がプロレス界の「綱とり」に成功した。世界タッグ王座も保持する最強の3冠ヘビー級王者・諏訪魔(36)に挑戦。19分30秒、片エビ固めで勝利し、悲願の初戴冠を果たした。相撲引退後、K-1、総合格闘技などを経て飛び込んだプロレスの世界。多くの経験を積み、横綱が全日本マットの中心に躍り出た。

 思いが結実した。王座奪取を果たした曙は、PWF会長に就任したドリー・ファンクJrに深々と頭を下げ、3冠ベルトを受け取ると、顔をうずめて喜びを爆発。拳とベルトを突き上げ、ファンの声援に応えた。

 諏訪魔の裸絞めで顔面が真っ赤になるほど追い込まれたが、心は折れなかった。ボディープレスを連発し、諏訪魔をふらふらの状態に追い込む。最後は210キロの体重と、ヨコヅナインパクト(脳天くい打ち)を完璧に決め、勝利をつかみ取った。「どこでも誰とでも戦ってやる」と絶叫。右肩にベルトを掛け、雲竜型のポーズも披露し、喜びを表現した。

 相撲引退後、K-1、総合格闘技を経てプロレス界に飛び込み、約8年。10年3月には自身初のシングルタイトルとなる、ゼロワンの世界ヘビー級王座を獲得するなど、少しずつ「プロレスラー曙」を作り上げてきた。05年、日本で初めて上がったプロレスのリングで受けたブーイングを、大歓声に変えてみせた。

 決戦前には都内の東関部屋に寄り、誰もいない部屋の前にある看板に10分間祈りをささげた。大相撲時代の優勝シーン、その後の苦しみ、これまでのことが頭を駆けめぐり、自然と涙がこぼれた。

 92年の夏場所で初優勝した、思い出深い両国の地。21年の時を経て、全日本の頂点に立った。それでも「今日は成長した曙を見せられたと思うが、相撲で言うとまだ日馬富士以下(笑い)。今まで通り、持っているものを磨いていく」と、さらなる精進も誓った。

 試合後には、世界タッグ王者のジョー・ドーリングから、ベルトにつばを吐きかけられる挑発を受けた。王者となり、狙われる立場となるが「そう簡単にベルトは渡さない」と力を込めた。新横綱の戦いが始まった。【奥山将志】

 ◆主要3団体の相撲界出身ヘビー級シングル王者

 全日本の3冠は89年の天龍源一郎(00年、02年にも獲得)が初。その後も96年に田上明、10年に浜亮太が獲得。曙が4人目。新日本のIWGPは99年に天龍、02年に安田忠夫が獲得。ノアのGHCは05年に力皇猛、同年田上が獲得した。