東前頭17枚目碧山(31=春日野)がトップと2差を守った。平幕の蒼国来を押し出し7勝2敗。大阪・交野市の宿舎最寄りJR星田駅-北新地駅間を電車通勤する幕尻力士は元関脇、昨年の名古屋場所で準優勝した実力者だ。古傷の左膝、昨年の九州場所で痛めた右足首の状態もいい。先場所の栃ノ心に続く「2場所連続平幕優勝」、00年春場所の貴闘力以来2人目の「幕尻優勝」をひそかに狙う。

 長く太い両手を伸ばし、碧山が蒼国来の当たりを止めた。一気に行かず相手を見ながら、押し出した。「中に入れたくなかったからね」。相撲は電車道ではなかったが、電車通勤だ。交野市の宿舎から最寄りの星田駅、場所から北新地駅まではタクシーを使い、両駅間は「もったいない」と運賃390円だけだ。

 前日の帰り道は車内で女性に声をかけられた。「どこの部屋?」「春日野部屋デス」「誰が有名なん?」「…栃ノ心、栃煌山…碧山トカ」「ふ~ん。で、あなたは?」「…アノ…碧山デス」「…!?」。驚く女性の顔に、付け人と笑ってしまった。

 失礼な、と怒らず「おもしろい話でしょ?」と笑えるから、精神状態良好だ。トップと2差で残り6番。事故なく通常運転を続ければ「もう1度、チャンスあるかな?」とつぶやく男に、昨年名古屋場所以来の大チャンスが巡ってくるかもしれない。