西前頭2枚目の阿炎(あび、24=錣山)が横綱白鵬を破り、初金星を挙げた。師匠の錣山親方(元関脇寺尾)譲りの突っ張りから、前に出続けて押し出し。初顔合わせで、全勝の第一人者を破る番狂わせを演じた。取組後は「目立ったッス」や「もう勝ち越した気分」などと、持ち前の明るい性格で報道陣を笑わせる“アビトーク”全開だった。平幕正代も敗れ、全勝は関脇栃ノ心1人となった。

 ぼうぜんと目が点になったまま、32本もの懸賞をつかんだ。無数に舞う座布団の1つが膝に当たり、やっと実感がわいた。阿炎は支度部屋に戻った直後に「ヤッター! うれしすぎて早く帰りたい」とさけび、付け人とグータッチ。“アビトーク”は絶好調で「目立ったッス。最高です。相撲人生で1番。大金星です」と、喜びを表現する言葉が続いた。ここまですべて三役以上を相手に2勝4敗だが「もう勝ち越した気分」と、充実感を口にした。

 立ち合いは、もろ手で突いた。白鵬の上体を起こすと、休まず突き、頭をつけて押し出した。白鵬に何もさせなかった。13年5月の初土俵の時、白鵬はすでに横綱。歴代最多40度優勝という雲の上の存在と初めて本場所で向き合い「心臓が口から出てきそうだった」と、極限の緊張を味わったからこそ喜びが爆発した。

 「小細工して勝てる人じゃない」と腹をくくった。4月27日に行われた、地元埼玉・越谷市での巡業で、初めて稽古をつけてもらい1勝12敗。その1勝も地元の声援に配慮した、お情けのようなものと自覚する。1月の初場所で新入幕後、2場所連続10勝。前日5日目は、かつて付け人を務めた横綱鶴竜との横綱戦で結びの一番も初体験した。敗れたが緊張は「1回目より2回目の方が」と和らいだ。

 テレビ解説で錣山親方は「(弟子が)誰も横綱に勝ったことがないので僕が元気なうちに」と期待していた。師匠譲りの取り口での金星は何よりの恩返しだ。もう1人、恩返ししたいのが母早苗さん。前日は母の54歳の誕生日だっただけに「すぐ電話したいから早く帰りたいんです。母の日も何もできなかったから」と心優しい一面も。優しくておもしろい待望の新スターが誕生した。【高田文太】