新大関栃ノ心(30=春日野)が自在の強さで2連勝だ。平幕の千代の国を圧倒的パワーで押し出した。絶対的な型の右四つにこだわらず、状況に応じた突き押し相撲を披露。栃ノ心は13年名古屋場所で、右膝靱帯(じんたい)を断裂したが、同じ場所、同じ5日目に、千代の国も左大腿(だいたい)二頭筋を損傷した“因縁”がある。栃ノ心はともに故障からはい上がってきた相手を退けた。

 真っ赤な顔で栃ノ心が押しまくった。千代の国のすばやさに、両手突きは空を切ったが、慌てない。左肘をかち上げのように持ち上げ、顔をのけ反らせ、最後は巨体を預けるように土俵の外へはじき出した。

 「体が起きたからね。でも、気合入ってたし、前に攻めてましたし。攻めないとね。このまま押していけると思った」。今や代名詞とも言える怪力「四つ相撲」。それを捨てた。夏場所で痛めた右手首を考え、稽古で控えていた「突き押し」を解禁した。

 名古屋で千代の国といえば、13年7月11日の5日目を思い出す。徳勝龍戦で右膝前十字及び内側側副靱帯を断裂したが、同じ日に千代の国も左大腿二頭筋損傷及び、血腫の大けがを負った。「2番後(本当は3番後)で千代の国関もね」。病院に救急搬送されると、直後に千代の国も運ばれてきた。「5分後ぐらい。先代の九重親方(元横綱千代の富士)に付き添われてた」という。

 当時西前頭11枚目だった自分は4場所連続休場、力士生命の危機に直面し、西幕下55枚目まで落ちた。西前頭10枚目だった千代の国も翌場所、十両に陥落した。同じ日に負傷し、復活を遂げた奇妙な縁を感じながらの2連勝だった。

 昨年の名古屋も思い出深い。部屋の同僚、碧山が大躍進し、13勝2敗で優勝次点となった。栃煌山も12勝3敗。ところが、自分は9勝6敗。トリオでの2ケタ白星を逃した。「俺が千秋楽で負けたからね」と苦笑いする。今場所も栃煌山が2連勝、碧山も1勝1敗と悪くない。「3人で優勝争い? 言い過ぎでしょ。でも、そうなればいいね」。1年たって、今度は自分が引っ張る立場。まわしを引かなくても強い新大関が、部屋頭として優勝戦線を突っ走る。【加藤裕一】