大関朝乃山(26=高砂)が「大事な日」を白星で飾り、優勝争いに絡んできた。同じ3敗の小結高安を寄り切って6勝目。1年前に55歳で亡くなった恩師、元近大相撲部監督の伊東勝人さんの命日で、「国技館の上から見守ってくれた」とあらためて感謝した。西前頭筆頭の大栄翔が初黒星で優勝争いも混沌(こんとん)。大関貴景勝は7敗目で綱とりから一転、負け越し危機となった。

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いつも以上に気迫がみなぎった。立ち合い、得意の右をねじ込んだ朝乃山だが、上手は先に高安に許す。かまわず前に圧力をかけながら相手の上手を切り、逆に左上手をとって勝負を決めた。「自分の形になったので、引きつけて足を運べたと思います」。得意の右四つ。その形を磨いてくれた恩師に思いをはせた。

1年前の初場所中、未明に届いた1通のメールで訃報を知った。都内の病院に駆けつけ、伊東さんに対面した。数日前に「チャレンジ精神でいきなさい」と激励を受けたばかりだった。あまりに急な死を受け入れられず、「頭が真っ白になった」が、土俵に立つことだけが供養。10勝5敗の好成績で、続く春場所後の大関昇進につなげた。

「いろいろ考えてしまえば硬くなる。先生と一緒に自信を持って土俵に上がりました。先生の教えがあったからこそ今、プロで活躍できている」

前日8日目から土俵入りで、いつもは大阪の春場所で使用する近大から贈られた化粧まわしを着けた。「監督の命日でもあり、そういう思いもあって着けました」。大関の晴れ姿を見せられなかったことは悔い。その分、「国技館の上から見守ってくれていると思う」と恩師を思って、土俵に立ち続けている。

かど番の今場所、6日目までに3敗もここにきて初の3連勝。大栄翔に土がつき、2差と一気に優勝争いに絡んできた。「先のことは考えず1日一番。自分の相撲を取りきれば結果はついてくると思います」。恩師を思い、本来の姿を取り戻した大関が、大逆転の可能性をつないだ。【実藤健一】

▽志摩ノ海(近大相撲部出身。伊東さんの命日に6勝目)「もう1年たったのかと。しっかり白星を重ねることがたむけ。活躍して伊東監督のところに届けばと思っている」

◆近大相撲部・伊東監督の教え子 今場所の幕内では、朝乃山、宝富士、徳勝龍、志摩ノ海、翠富士(中退)が伊東監督の教え子。3月に大阪で開催する春場所前には、現役OBが近大相撲部を訪れて後輩に稽古をつけるのが恒例行事となっている。