取組時間を見ると、照ノ富士の今場所の心境が垣間見えてくる。今年1月の初場所から名古屋場所まで、白星を挙げた49番の平均取組時間は10秒8だったが、今場所の13勝は平均27秒7と約3倍の時間を要した。

兄弟子で部屋付きの安治川親方(元関脇安美錦)は「受ける相撲が多い。攻めていっているというよりは、相手が何もできなくて力尽きて負けているのが多い」と指摘する。リモート取材で冗舌に語るタイプではないが、照ノ富士は今場所12回の取材対応でも「落ち着いて」、「慌てることなく」、「じっくり」といったワードを計13回、自らに言い聞かせるように発していた。先手を取ることより、確実に白星をつかみ取っている印象は強い。

さらに慎重だったことに加えて、掲げる“横綱像”を体現したとの見方もある。安治川親方は「横綱像を自分で考えて取っているんじゃないか。口には出していないけど、常々(横綱といえば)受け止めて勝つと言われている中で、自分の中で模索してやっているところじゃないか」と察する。昇進伝達式で横綱像を「生き方で証明したい」と語っていた照ノ富士。口上で述べた「品格」を土俵上で示していたのかもしれない。

ちなみに、初めて臨んだ横綱土俵入りは14日目終了時で毎日1分46秒~1分51秒。師匠の伊勢ケ浜親方は「初めてで疲れが出たかもしれないけど、相撲に関係はない。逆に気合が入るもの」と評価していたが、5秒以内のズレに収める“安定感”だった。【佐藤礼征】