6場所出場停止が明けて復帰の大関経験者、西三段目22枚目の朝乃山(28=高砂)が「みそぎ」の優勝を飾った。大青山との6戦全勝対決を得意の右四つからの寄り切りで制し、約1年ぶりの本土俵を7戦全勝で締めくくった。師匠の高砂親方(元関脇朝赤龍)ら支えてくれた周囲への感謝を口にし、すぐに気持ちは幕下上位に番付を戻す秋場所(9月11日初日、東京・両国国技館)へ切り替えた。

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土俵下から見守る視線に報いたかった。審判として高砂親方が見守る先で、朝乃山は完璧な相撲で大青山を寄り切り7戦全勝、優勝を飾った。「素直にうれしいです。師匠にはうそをついてしまった。少しずつ恩返ししたい思いで土俵に上がりました」。大関経験者が三段目では勝って当然。とはいえ、特別な思いをこめたみそぎのVとなった。

昨年5月に日本相撲協会の新型コロナウイルス対策ガイドライン違反が発覚。さらに協会の事情聴取に虚偽報告をするなどして同年6月に6場所出場停止処分を受けた。何よりの悔いが「うそ」。朝乃山は「部屋の方々を裏切ってしまった。不祥事を起こしても応援してくれる人がいる。いろんなプレッシャーはあったが、少しでも恩返ししたい気持ちで土俵に上がりました」と言った。

最初は「1年ぶりだったので体が硬かったり、思うような相撲がとれなかった」と明かし、その中で「土俵に入っていく時のお客さんの温かい拍手、呼出しに名前を呼び上げられた時にもう1度相撲をとらせてもらえる感謝の気持ちがわいた。もう1度、みなさんに応援してもらえる力士を目指したい」。

1度は土俵から離れる決意もした。「いろんな人が支えてくれた」と周囲の力で再び戻ってきた土俵。まさに原点を見つめ直す機会にもなった。「なぜ大相撲に入ったのか。(中学、高校の)先生方がいなければ大相撲に入っていない。一から考え直して(場所に)臨みました」。立ち返って再出発を果たした。

来場所は一気に関取復帰を狙える地位まで番付を戻す可能性もある。「今場所の相撲のいいところ、悪いところを確認して来場所に臨みたい」。地位よりも大切なものを知った。「あらためて『相撲はいい』と思いました」。これからも土俵に上がれる喜びをかみしめていく。【実藤健一】

◆朝乃山広暉(あさのやま・ひろき)1994年3月1日生まれ、富山市出身。本名・石橋広暉。16年春場所初土俵。187センチ、170キロ。得意は押し、右四つ、寄り。

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