昨年12月に伊勢ケ浜部屋から独立した安治川親方(元関脇安美錦)が、東京・江東区石島に興す安治川部屋の準備を進めている。仮住まい先の同区千田から移転し、6月中旬には部屋開きを行う。「相撲部屋の主役は力士。私たちはサポートする立場」という親方の考えを聞いた。【取材=平山連】

-伊勢ケ浜部屋から昨年12月に独立。現在の状況は

安治川親方 仮住まい先近くの宇迦八幡宮の一角をお借りして土俵を作って、稽古をしています。地元の人が紹介してくれたのがきっかけです。

-新弟子のスカウト、部屋の移転作業、弟子の指導など仕事が多岐にわたる

時間が足りません。部屋のことに関してはおかみに任せ、おかげで私は今月(5月)だけで新弟子のスカウトで北海道から沖縄まで行くことができました。お互いにずっと走り続けている感じで、明日のことまで考えられません。

-現役時代よりも大変そう

休んでもしょうがないですよ(笑い)

-石島に相撲部屋を興す

縁に恵まれました。近くには商店街、公園、美術館もあって静かな所。落ち着いた環境の中で稽古ができそうです。

-こだわりは

弟子たちが相撲に集中できる環境をつくりました。例えば最近出稽古によく行く浅香山部屋では稽古場の壁が明るい色合いなんです。雰囲気も明るくなる気がして良いと思って参考にしました。現役時代のことを振り返りながら、おかみの意見も聞いて部屋作りに生かしています。

-話し合って実際に取り入れたものは

裏口を作らなかったことです。裏口から出られる相撲部屋もありますが、力士として自覚を持つためにやっぱり正面玄関を使ってほしいなと思ったんで作りませんでした。

-部屋開きは

6月18日に部屋を開放して部屋開きをする予定です。稽古を公開したり、ちゃんこを振る舞ったり。地元の人たちにも来てもらって、相撲部屋が身近になるような試みをしたいです。

-一から始めることへのやりがいは

本当に充実しています。弟子たちが体が大きくなっているのを見るだけでも、うれしい。作った後援会の会員が増えるのもまたうれしいです。

-弟子と接する上で大事にしていることは

関取になることを目指してやるのはもちろんなんですが、その挑戦が仮にうまくいかなくても、安治川部屋に所属した経験が1つのステップになるようにしたい。後援会の力も借りながら第2の人生もサポートできるようにしたり、将来もずっと縁がつながっていくような部屋にしたいです。

-現役中のサポートは

もちろんです。稽古が終われば、現役時代は結構自由な時間が多いんです。例えば、勉強がしたいという弟子には学校に行く手だてを準備したいです。

-稽古の指導する上で心がけていることは

自分の感覚でなるべく教えないようにしています。いつも心がけていることは、「小学生も理解できる」ように教えることです。

-柔軟な考えは現役時代の経験からか

どちらかといえば、辞めた後ですね。早稲田の大学院に通ったこと、大相撲の解説の仕事をしたことが大きいです。大学院で論文を書く際に指導教授から「誰が書いても同じ結果になるように」と言われるんです。また、大相撲の解説でも誰が見ても取組の内容が分かるように、良かった点を解説することが求められると感じました。もちろん理解力がある子には、その子に合わせて伝えることも変わります。1人、1人に合った教え方ができるように意識しています。

-部屋持ち親方になる上で大学院時代の学びが生きている

大きいですよ。現役生活の時と同じぐらい、良い時間を過ごせました。今も他のスポーツを見ながら、相撲に置き換えて生かせることはないかと考えるのは、あの経験があったからこそです。

-親方としての経験から、現役力士たちに伝えられることは

土俵に上がっている時の恵まれていることは、辞めてみないとなかなか分からないことです。例えば、巡業の時に「なんだこの弁当は!」「なんだこの宿舎は」と思う人もいますが、(春巡業で)川崎場所の先発隊として携わった身として言えば、予算内に用意することがいかに大変か。置かれた環境のありがたみに気づくか、気づかないかでも相撲も変わってくることはあるんじゃないかと思います。