大相撲秋場所(9月10日初日、東京・両国国技館)で新十両に昇進する大の里(23=二所ノ関)が、初参加の巡業で大関貴景勝(27=常盤山)に胸を借り、ぶつかり稽古で砂まみれになって、大歓声を浴びた。26日、出身の石川・津幡町に隣接する金沢市で行われた夏巡業に参加。朝稽古では、幕下以下の申し合いに続き、十両の申し合いにも加わった。十両相手に3勝2敗と、日体大で2年連続アマチュア横綱、幕下10枚目格付け出しから所要2場所で関取となった実力をのぞかせた。さらに、ぶつかり稽古では急きょ、貴景勝に指名されて胸を借り、約7分間、たっぷり汗を流した。

貴景勝には何度も転がされ、息を切らしながらも、すぐに立ち上がり、気持ちの強さを示した。ざんばらの髪を振り乱し、背中は砂まみれで真っ黒。そんな姿に途中から、自然発生で地元ファンによる手拍子が起こった。さらに手拍子に合わせて「大の里」の大合唱。師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)譲りの稽古への実直な姿勢が、相撲どころとして知られる石川県のファンの心を動かした。

稽古後は「関取として帰ってくることができて、巡業に参加できて、地元の応援をすごく感じた」と、充実感に満ちた表情で話した。巡業初参加だけに、大勢のファンの前で稽古したのは初めて。大の里コールには「すごくありがたかった」と喜んだ。

ぶつかり稽古は、直前まで二所ノ関親方の現役時代の弟弟子で、これまでにも稽古した経験のある前頭高安に胸を借りる予定だった。だが、急きょ貴景勝から声をかけられた。「ビックリしました。光栄なこと。大関の胸を借りたことはなかったので。普段は絶対にできないこと。巡業ならではのこと。貴重な経験をさせてもらいました。大関は重かったです」と感謝した。厳しく稽古をつけてもらったのは、同じ二所ノ関一門で、番付最高位の貴景勝からの、期待の裏返しでもあった。

貴景勝も「ご当所だからね。自分も新十両の時に巡業で胸を出してもらって、いい経験をさせてもらった。頑張ってほしい」と、大の里への期待を口にした。

巡業は観戦に訪れたこともなく、雰囲気を味わうのも初めて。「分からないことだらけで、最初は不安だったんですけど、だんだん会場の雰囲気にも慣れた。地元の方々に声をかけてもらえて、すごいうれしかった」と、初々しく話した。関取衆との申し合いは「来場所からは、当たり前のようにやるわけなので」と、気負いはなかった。その来場所の目標は「勝ち越し」ときっぱり。再び幕下に戻るわけにはいかない決意をにじませていた。【高田文太】