経験値とうまさ、そして先場所の悔しさをぶつけて北勝富士が3人目の大関も倒しました。

常に先手を打ったのが何よりの勝因でポイントは2つあります。まず霧島に差されないように徹底しておっつけたこと。それも少し様子を見ながらの半歩、下がってやや左に動きながらのもので、若い力士にはマネのできない、うまさがありました。2つ目は右のまわしを取れたこと。それまでの流れで主導権を握った上に、あの前まわしです。ただ取っただけではなく、足腰のいい大関に残されまいと引きつけて大関の腰を浮かせました。押し相撲だけど、まわしを取って四つでも取れる北勝富士の師匠(八角理事長)の相撲を思い出しました。

先場所は優勝決定戦で豊昇龍に敗れました。優勝決定戦で負けた悔しさは相撲人生で一番、というのが私の経験談です。96年九州場所、11勝4敗で並んだ5人の決定戦で負けた私は、何のために千秋楽まで頑張ったんだ、と自分を許せなかった。この悔しさを晴らすのは翌場所で優勝するしかない、と年明けの初場所は初日から優勝狙いでした。現役生活で唯一、狙っていった場所は、おかげさまで14勝1敗で優勝することが出来ましたが、それほど悔しいことなんです。北勝富士の取組前からの表情を見ていると、リベンジの気持ちが感じられます。悔しさを持ち続けられるのも心技体の「心」の強さがあるからこそです。3大関を倒しここからが勝負。腰を引かずに頑張ってほしいですね。(日刊スポーツ評論家)