初優勝は譲れない。東前頭15枚目の熱海富士(21=伊勢ケ浜)が、阿炎(錣山)を寄り切りで破り3敗を守った。大栄翔、貴景勝と立て続けに敗れて星を落としていたが、連敗を2で止めた。大関貴景勝が豊昇龍に敗れたため、再び単独首位となり、初優勝へ王手をかけた。4敗は4人で、千秋楽では最大4人による優勝決定戦の可能性も出てきた。
意地を見せた。2連敗中の熱海富士が阿炎を下して11勝目を挙げた。前日13日目には大関貴景勝と初めて対戦して力の差を痛感した中で、「まだ2日あるんで」と言い残して気持ちを切り替えた。初優勝へ生き残った。
出場力士のうち幕内最年少の21歳。186センチ、181キロの体を生かした前に出る相撲で今場所序盤から快進撃を続け、千秋楽までもつれる優勝争いを盛り上げた。新入幕を果たした昨年九州場所ではわずか4勝に終わったが、厳しい稽古で知られる伊勢ケ浜部屋で地力をつけた。時に泥まみれになり、時に涙を浮かべながらの必死な努力が実を結んだ。
人気もうなぎのぼり。地元静岡・熱海市にある後援会によると、秋場所の開催期間だけで40団体が新たに会員となった。千秋楽には後援会主催で市役所でパブリックビューイングを開催する予定で、街を挙げて郷土力士の待望の瞬間に向けて準備が進んでいる。さらに、今場所から化粧まわしに採用された地元静岡・熱海市の人気店「熱海プリン」からは、うれしいご褒美も約束された。優勝を記念して、300個のプリンを届けるという大盤振る舞いだ。
21歳の新鋭が賜杯を手にすれば、初土俵から所要18場所での初優勝となれば貴花田(後の貴乃花)と朝青龍の24場所を大幅に更新し、年6場所制となった1958年(昭33)以降初土俵の力士では最速(付け出しを除く)。静岡県出身力士として初の幕内優勝に加え、十両、幕内と連続Vとなれば1914年(大3)1、5月場所の両国以来、109年ぶり2人目の快挙。地元の期待を背負い、プレッシャーをはねのけて賜杯を手にすることはできるのか。【平山連】