新入幕で快進撃を続けていた西前頭15枚目の大の里(23=二所ノ関)が、大関とりの関脇琴ノ若に敗れ、8勝2敗となった。

昭和以降3位のスピード出世となる、所要4場所で新入幕(1位は遠藤と伯桜鵬の3場所)。3日目に阿武咲に敗れた後は、4日目から6連勝していたが、優勝争いの先頭から陥落した。盛り上がりが最高潮に高まる幕内後半戦で取組を行うのも、三役以上と顔を合わせるのもこの日が初。互いに1敗同士で、館内のファン投票で決まる懸賞の「森永賞」にも選出された。これまで経験したことのない注目の取組に敗れたが、健闘に温かい拍手が送られた。

琴ノ若とは、本場所はもちろん、稽古場でも肌を合わせたことはなかった。まさにファーストコンタクトとなる立ち合いに懸けるため、この日、茨城・阿見町の部屋で行った朝稽古では、立ち合いの動作を繰り返し確認していた。ただ、初土俵から5場所目で、これまでで最も注目される取組を前にしても「何もプレッシャーは感じない。新入幕の1年生なので、思い切ってやるだけ」と、取組を約9時間後に控えても、いたって冷静に話していた。

夜は午前0時から1時ごろに就寝し、朝は午前6時から7時ごろに起きる生活も、何も変わらない。緊張とは無縁の様子で「よく寝られている。(疲れも)大丈夫」と、自然体でこの日の大一番を迎えた。

新入幕場所で9日目に勝ち越すことは「想像していなかった」といい、注目度と場内の歓声、拍手は増すばかりだが「ありがたい」と感謝する。「ここからは欲を出さずに臨みたい。自分の良さを出さないと勝てない」。強敵を迎えれば迎えるほど、一段と胸が高鳴る生粋の勝負師だ。

師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)は「一撃で『グチャッ』と、相手をつぶすような立ち合いを身に着けさせている」という。師匠の期待通り、今場所は立ち合いで勝負を決める取組も多かった。6日目の宝富士戦は、立ち合いで相手を吹っ飛ばし、二の矢で土俵際まではじき飛ばすと、最後は距離を詰めてそっと押し出す完勝。わずか3発。最後は36歳のベテランの戦意を喪失させるほど、力の違いを見せつけていた。

優勝争いを占う一番に敗れたが、依然として110年ぶりの新入幕優勝、史上初のざんばら髪力士の幕内優勝の可能性は高い。11日目は、初めて大関に胸を借りる豊昇龍戦となった。この日は敗れたが、元日に能登半島地震の被害に遭った石川県津幡町出身で、傷ついた故郷に勇気を与え続けている。2024年最初の本場所で、終盤戦に再び連勝街道を歩めば、今年の主役となるかもしれない期待感は高まるばかりだ。