アイデアと器用な手先に恵まれた少年が、乏しい機材を組み合わせて「風力発電機」を作り、極貧の村を救う。8月2日公開の「風をつかまえた少年」は、アフリカの内陸国マラウイを舞台にした奇跡のような実話の映画化だ。

人口の85%が農業に従事するマラウイには国土の20%を占めるマラウイ湖があるが、かんがい設備が普及してないため頻繁に洪水、干ばつに見舞われ、農村部の電化率は4%。乾電池式ラジオが唯一の電化製品という状況だ。

14歳の少年ウィリアムの家には両親に姉がいる。たばこ産業に土地を売り渡す隣人もいる中で、実直な父親は主食メイズ(トウモロコシの一種)の栽培にこだわり、姉は貧困の中で大学進学を目指している。母は裕福な家の出身のようだが、生真面目な父を愛し、一家を精神的に支えている。

隣人のラジオ修繕を一手に引き受けるウィリアムは「村の電気技師」だ。授業料の滞納で放校されてしまうが、図書室に潜り込んで向学心を満たしている。

お決まりの集中豪雨とその後の日照りが続いた01年、日頃温厚な村の人々も飢えでぎすぎすし始めている。ひからびた農地にはただただ強風が吹いている。

図書館通いを続けるウィリアムが、数少ない蔵書の中で行き当たったのが風力発電の仕組みだった。「これなら止まってしまった井戸の吸い上げポンプを恒常的に動かすことができる」。夜になると、姉を訪ねてくる交際相手の自転車に付いているライトの「発電装置」。そして一家の唯一の移動手段である古びた自転車にも、回転翼を支えるホイールと回転数を上げるためのチェーンと歯車がついていた。

政府の支援制度の不備に村人の怒りが爆発した暴動、姉の駆け落ち…周囲の騒々しさにもまれながら、ウィリアムはヒントや素材をかき集め、発電機の実現に向けて動きだす-。

昨年のインド映画「パッドマン 5億人の女性を救った男」も記憶に残る作品だった。不衛生な布を使っている妻のために清潔で安価な生理ナプキン作りに奔走した男性の実話である。困窮している人々が本当に必要としているのは、求めているのは何なのか。はたからはもちろん、現地の人でさえ見逃してしまいそうなピンポイントへの「気づき」とそれを実現するための「不屈の闘志」の大切さがこの2作の底流で重なっているように思う。

「それでも夜は明ける」(13年)のキウェルテル・イジュフォーがこの作品の原作に出会ったのは10年前。監督、脚本、父親役と入れ込んでいる。モデルとなった原作者ウィリアム・カムクワンバとの初対面は格別に印象的だったようだ。

「彼は好奇心旺盛で、かなり意志が強い。やると決めたら何が起きても後には引かない。必要なことをやり遂げるため、あらゆる方法を考えて実行するんだ」

13年に米タイム誌の「世界を変える30人」に選出されたウィリアムは現在米国とマラウイを行き来しながら農業、水アクセス、教育などのプロジェクトに関わっている。

少年役のマックスウェル・シンバはオーディションで選ばれたケニア生まれの17歳。ハーバードやMITを目指しているという素顔そのままに生き生きと演じている。母役はアフリカ系フランス人のアイサ・マイガ。都会的雰囲気の中に「賢母」をにじませている。【相原斎】