広大な敷地にかまぼこ形のスタジオが立ち並び、撮影機材や小道具、衣装を抱えたスタッフが行き来する。周囲にはオープンセットが組まれていることもあり、近所の子どもが迷い込んで遊んでいそうな、ゆる~い感じが心地よかった。映画記者として足しげく撮影現場に通った80年代には、全盛期の面影を残した、いかにも「撮影所」という光景がまだあった。

東京周辺だけで、松竹大船撮影所、成城の東宝撮影所、東映大泉撮影所、調布には日活と大映の撮影所があって、ぶらっと訪れても、常駐の宣伝マンが温かく迎えてくれた。今や松竹大船は閉所となり、他の撮影所も敷地内に商業施設ができたり、スタジオ入り口のチェックが厳しくなって、敷居が高くなった。

9日公開の映画「バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら」は、80年代に見た光景をほうふつとさせる「バイプレウッド撮影所」が舞台だ。映画を支えてきた名脇役たちと併せ、往年の撮影スタジオへのオマージュとなっている。

郊外の撮影所では、立ち並ぶスタジオのあちこちで、映画や連続ドラマの撮影が進行中だ。オープンセットでは「大河ドラマ」の収録も始まっている。

そんな中、浜田岳(登場人物はいずれも本人役)が初監督に挑戦する映画の撮影が行われている。予算の限られた作品で、主演はなかなか意のままにならない「犬」。出演者はスタッフも兼任しており、売れっ子ぞろいが災いして、他の出演作とのスケジュール調整にきゅうきゅうとしている。気弱な浜田は作品の目玉として出演している役所広司の大ドジにNGも出せず、さらにはこの大先輩にいいところを見せようと「ラストシーンには100人の役者をそろえます」と見えを張ってしまう。

主演犬の失踪、台風の到来…アクシデントの中で、果たして映画は完成するのか、浜田組の悪戦苦闘はやがて撮影所全体を巻き込んで…。

田口トモロヲ、松重豊、光石研、遠藤憲一というドラマシリーズのレギュラーに加え、天海祐希、有村架純ら一線級が大挙出演してタイトルとは矛盾するようなオールスター作品となっている。ドラマシリーズからの松居大悟監督は、そのままのゆる~い空気を持ち込み、ゆったりとしたやりとりの中で、手だれぞろいの本人役が虚実の境を行ったり来たりするところが何とも楽しい。

役所の大ボケに菜々緒の強烈な突っ込み…あれやこれやをすべて受けて、ひたする落ち込んでみせる浜田の懐の、さらなる深さを実感させられる。

トリュフォーの「アメリカの夜」やフェリーニの「インテルビスタ」もちらっと思い出す。自分たちのことを描くのだから、おのずと「最強の業界もの」である。撮影所全体を包むファンタジックな終わり方にも心くすぐる。

ドラマ版の進行中に亡くなった大杉漣さんも写真出演し、作品最後のアクセントとなっている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)