「レオノールの脳内ヒプナゴジア」(13日公開)は、新進気鋭の監督が競い合うサンダンス映画祭で審査員特別賞に輝いている。
生と死の間や劇中と現実の境界線を縦横に行き交う重層構造の作品で、難解に陥りがちなこの題材を、フィリピンのマルティカ・ラミレス・エスコバル監督(31)が壮快なエンタメ作品に仕上げた。そんな異才が主演にすえたのが、同国で初めて英ロイヤル国立劇場に立った伝説の舞台女優シェイラ・フランシスコ。65歳でいきなりシュールな作品世界に飛び込んだ彼女に聞いた。
正統派の舞台に取り組んできたベテラン女優が、奇想天外なインディー映画に出演するのは勇気のいることだったに違いない。
「脚本を読むとアクションシーンが多い。私はやったことがないし、無理だと思って最初は断ったんです。ところが、監督にお会いして…マーティン(マルティカの愛称)と聞いて男性かと思ったていら、かわいらしい若い女性。資金集めなどでこの作品のために8年間頑張ってる、と。パッションに負けましたね」
主人公のレオノールは、かつてのアクション映画ブームを牽引(けんいん)した女性監督だ。最近は記憶力も曖昧になっているが、脚本募集の新聞広告を目にし、しまい込んでいた未完の脚本に筆を入れて、再起を目指す。ところが、散歩中にふいに落下してきたテレビが頭に当たり、意識を失って病院に担ぎ込まれてしまう。
彼女の脳内では脚本執筆が進み、自身の映画で活躍したかつてのアクションスターや不慮の事故で亡くした長男が登場して…。
映画は、現実世界と彼女の想像世界を行き来しながら、クライマックスのアクションシーンでそれが一つになる。
「クライマックスの巨大な倉庫での格闘シーンは、暗くて、コウモリが飛んでいる環境だったんです。そこでの立ち回りは本当に怖かったんですけど、出来上がった作品をみたら、その雰囲気が生かされていて、監督の手腕に改めて感心しました。70、80年代のフィリピンは決して良い時代ではなかったので、みんながアクション映画のスターに夢を、正義を求めていたんですね。現実にアクション俳優から大統領になったエストラダ(98年第13代大統領に)の例もあります。監督はそんなフィリピン特有の空気を作品に生かしているんですよ」
ラストの歌って踊るシーンは、「ラ・ラ・ランド」のモブシーンをほうふつとさせる出来映え。ここにもエスコバル監督の才気を感じさせる。「南太平洋」のロンドン・ロイヤル国立劇場公演で絶賛されたフランシスコの面目躍如でもある。
「フィリピンでは、舞台のミュージカルはそんなにメジャーなジャンルではないので、私が歌って踊る姿を見て驚いた観客も少なくないと思います。撮影の日は雨が降っていたんですけど、それは楽しかったです。スタッフ、キャストが全員参加して思いっきり踊るとってもエキサイティングな撮影でした」
昨年のアカデミー賞ではミシェル・ヨー(61)が主演女優賞に輝いたが、年齢を重ねた女性が主人公の作品は決して多くない。
「そうですね。男性とは違って年を重ねた女性に主演の機会はなかった。私も監督から自分の祖母のような人を主人公にしたいと聞いた時は信じられない気持ちでした。レオノール役が共感を得られるとも思わなかったけど、映画を観た若い人から声を掛けられたり…驚くばかりです。実はサンダンス映画祭でミシェル・ヨーさんにお会いする機会があって『すごく良かった。私たちはまだまだこれからよ』と。感激でしたね」
【相原斎】
◆シェイラ・フランシスコ 大学卒業後、広告会社でCMプロデューサーに。並行して行っていたバンド活動が舞台演出家の目に留まり、91年からミュージカル女優に。01年「南太平洋」のロンドン公演でフィリピン人として初めてロイヤル国立劇場の舞台に立つ。この公演の世界ツアーで日本の舞台にも。テレビや映画で端役を務める機会はあったが、映画主演は今回が初めて。65歳。




