前回、宝塚のレジェンド(伝説の人物)のことを書いたが、今回は劇団四季のレジェンドと言ってもいい存在に触れたい。

 飯野おさみ、70歳。現在、東京・四季劇場で上演中のミュージカル「リトルマーメイド」でヒロインの人魚アリエルを優しく見守る、宮廷音楽家の蟹のセバスチャンを演じている。13年4月の開幕以来、600回以上も出演し、中心になって歌い踊るショーナンバー「アンダー・ザ・シー」では最高の盛り上がりを見せる。

 飯野は、実は「ジャニーズ事務所」の出身です。ジャニー喜多川さんが事務所を立ち上げ、最初に世に出した4人組アイドルグループ「ジャニーズ」のメンバーでした。62年にデビューし、テレビ放送初期の人気番組「夢であいましょう」、石原慎太郎作・演出の舞台「焔のカープ」などに出演。66年に歌やダンス修行のために米国に渡り、当時の大スターのビング・クロスビーらとも会いました。しかし、残念ながら帰国後に67年に解散しました。活動は5年間でしたが、ジャニーズの成功がなければ、SMAPも嵐もなかったかもしれません。ちなみにメンバーには俳優あおい輝彦もいます。

 飯野はミュージカル志向が強く、解散後に再び渡米し、ダンスの腕を磨き、72年に帰国。四季ミュージカル「アプローズ」のオーディションに合格し、ミュージカル俳優としてデビューしました。以降、「ウェストサイド物語」のリフ、「キャッツ」のマジシャン猫ミストフェリーズ、「コーラスライン」のマイク、「エビータ」のチェ、「ウィキッド」のオズの魔法使い、「アイーダ」のゾーザーと、劇団の節目の公演で重要な役を担ってきました。

 70歳で現役のミュージカル俳優は非常に珍しいのですが、飯野は40代のころから「フレッド・アステア、ジーン・ケリーが70歳でも歌い、踊っている。僕も70歳でも歌い踊っていたい」と目標にしていたそうです。今後は「体さえしっかりしていれば、まだできる。どこまでできるか分からないけれど、75歳ぐらいを目標にしています」。

 ジャニーズ事務所からは、ジャニーズを皮切りにフォーリーブス、光GENJIなど数多くのグループが生まれ、そして解散しましたが、ジャニーズ卒業生はいろいろなところで活躍しています。飯野は62年のデビューですから、芸歴は今年で55年になります。まさにレジェンドにふさわしい存在でしょう。【林尚之】