岩井俊二監督は、96年の「スワロウテイル」でCHARA、01年「リリイ・シュシュのすべて」でSalyuを起用して音楽映画を作り、コラボした歌姫とともに時代を席巻してきた。最新作で白羽の矢を立てた新たな歌姫は、脚本執筆中にオンラインで見たライブの歌声に衝撃を受け「この物語の主人公は彼女しかいない」と即、対面したアイナ・ジ・エンドだった。

アイナは、岩井監督の弟子の行定勲監督がコロナ禍の20年5月にYouTubeで配信した「いまだったら言える気がする」に出演したが、映画への出演、主演は初めて。ドラマの出演歴もあるが、演技経験が少ない中、歌うことでしか声が出せない路上ミュージシャンという難役を演じた。解散した6月まで活動したBiSHは“楽器を持たないパンクバンド”だが劇中ではギターを弾き主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」含め劇中歌も書き下ろした。

歌唱がベースの役どころだけに、そもそも演じているのか? などと思った人にこそ、映画館で確認して欲しい。一人二役にまで挑戦したアイナが、フィルムに刻み込んだものは間違いなく演技だ。共演のSixTONES松村北斗が「天才の1人だと思いました」、広瀬すずが「完璧。才能ある人は違う」と絶賛したのも、納得できるはずだ。

作品としては、約3時間と尺が長く、時間と場所が行き来する物語も、分かりにくい面があるのは否めない。それでも、見たら心に何かが残る1本であることは間違いない。【村上幸将】

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