キャスティング。物語の登場人物にあわせて俳優を選ぶ。特に商業映画となると興行収入などを大いに気にする必要があり、役に合っているかどうかより、人気者をキャスティングするケースが多いと感じる。かなり前になるが「こち亀」の両さん役に香取慎吾が決まった時、誰もが突っ込みを入れたはず。それはハットリ君もしかりだが、期待に反して意外とハマり役だったとも記憶している。かたやあてがき。演じる俳優をあらかじめ決めておいてから脚本を書く。当てて書く、というもの。昨今の原作もの主流の映像業界では少なくなっているのは寂しい気もしますが…頑張ります。

そこで原作もの。文学賞を受賞したり、ベストセラーになったりとすでにファンがついているものが多く、この時点である程度の興行収入が見込める。個人的にも、面白い原作があれば、どのように映像化するのかが気になる。才能のある監督や製作陣であればなおさらである。必然と長いであろう原作に対し、どこを切り取るのか、どのように展開するのか、才能と才能の化学反応を楽しむ人も多いのではないだろうか。そしてキャスティングにおいても、あの役をだれが演じるのかと期待する人も多いと思う。また最近話題の2・5次元舞台では、原作キャストのファンの方が俳優ファンよりも多いケースがあるとも聞く。すごい時代です。

さて、今月20日に初お披露目となる自身の監督作品「さよなら グッド・バイ」。太宰治の未完の傑作「グッド・バイ」を大胆にアレンジ。原作では、雑誌編集長の田島が、妻ではなく妻役の美女を連れて、10人の愛人と次々と別れていく。解説では、田島は逆ドン・ファン、10人の女にほれられている「見目麗しき男」と書かれている。過去作品(映画や舞台)では設定はそれぞれ異なるが、大泉洋、仲村トオル、山崎まさよし、大野拓郎…が演じる。 正直、それほどしっくりこないなと思っていたところ(すいません…)、思い出したのが前作「一人の息子」(2018年)でW主演を務めてくれた玉城裕規君。「一人の息子」ではクールな見た目に合わせて、言葉少なくどこか影がある青年役でキャスティング。家族のことになると急に態度が一変するなど情緒不安な中、内に秘めたる思いを見事に演じてくれた。特にラストシーンの表情が必見かと。

沖縄出身の35歳、前述した2・5次元舞台で頭角を現し、その後映画に舞台と活躍の場を広げている。ネットで検索すると中谷美紀が同時に検索されており、中性的な顔立ちがこれでもかと目を引く。見た目だけでも田島の資格は十分だが、話してみると意外ととっつきやすい。沖縄生まれの影響なのか、いい意味で自由。そして若くして売れたわけではなく、養成所や舞台のアンサンブル、アルバイトをこなしていた時期もあり、芝居に対する思いも人一倍熱い。

このあたりのギャップも含めて田島をどこか想起させたのかもしれない。映画自体は舞台を現在に、10人の愛人と別れるところまでは同じだが、原作というか原案程度にとどまらせていただき自由に創作させていただいた。果たして誰もが認める「見目麗しき男」を演じられているのか-。スクリーンの前で確認してみてください。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画『リュウセイ』の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営。今夏には最新作「元メンに呼び出されたら、そこは異次元空間だった」が公開予定。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)