【先週の言葉】「今は警察サスペンスが人気で家族のドラマは作られなくなっている。でも、家族の中に最近はサスペンスがすごいんですよ」

TBSドラマ「渡る世間は鬼ばかり 三時間スペシャル2018」(17日午後8時)のPR会見を行ったプロデューサー石井ふく子さん(92)の言葉です。脚本の橋田寿賀子さん(93)とともにホームドラマについて語り、家族の中にあるサスペンス性をアピールしました。

確かにドラマ界は警察、お医者さん、弁護士の3大テーマや、女性のお仕事ものなどが人気の中心。「家族」という最小単位で展開する「渡鬼」のような直球ホームドラマはあまり見かけなくなりました。書ける脚本家がいないという背景もあるのでしょうが、石井さんは「家族をうるさいと思っている人が多いんだと思う」。だからこそ「家族ってやっぱりいいなと思ってほしい」と、ホームドラマ愛を語りました。

家族という近い関係だから起こる軋轢は、確かにサスペンスの宝庫。最新作は、「幸楽」の勇(角野卓造)が階段を踏み外して入院してしまい、妻の五月(泉ピン子)が介護のため店を休む幕開けです。忙しい家業から離れた夫婦が、病室という空間で突然2人きりで向き合わざるを得なくなる状況は、ある種の密室サスペンスと言えそうです。

勇のリハビリの間、長男眞(えなりかずき)の家に間借りをしようとするも、嫁(清水由紀)に同居を拒否され、「親の面倒」をめぐって兄弟バトルも始まるスリリングな展開。相続放棄、在宅医療、尊厳死などのキーワードが随所にあり、5人姉妹のそれぞれの家庭もさまざまな形で暗雲に見舞われるなど、「最近は家族の中にサスペンスがすごい」という石井さんの見解に納得なのです。

勇と五月にどんな会話が生まれ、どんな信頼や夫婦愛が築かれるかが今回の見どころ。石井さんは「五月だけではなく、5姉妹それぞれが相方とのつながりを育んでいきます。互いに愛おしい人だと気付く幸せ。そんなことが伝わると幸いです」。石井さんも橋田さんも「一人っ子で家族がいない」ことが共通点とし、「だからこそ、客観的に家族の心のあるドラマを作ってきた」(石井さん)「夫婦は相手を認めるのが大事。最後はお互いを思うようになる書き方をしている」(橋田さん)と話しています。

会見は約45分にわたりましたが、お2人ともとにかく元気。橋田さんは「2人で180歳。こんな記者会見あります? 皆さんばかばかしくてやってられないでしょ? 93でまだ仕事してるなんて、おかしくないですか? わはは」。普段は大好きな世界一周の船旅を満喫しているとし、「今回の脚本もお船の上で16日で書きました」。

少しでも取材者側に沈黙があると、自由に話を脱線させて場をつないで笑わせ、互いに「けんかしてもこの人は裏切らない。ぜひ長生きして私のお葬式をしてください」(橋田さん)「書けなかったらぶっ殺してやる! とか昔は言ったこともありますけど、そんな付き合いでもう50年になります」(石井さん)と、漫才のようなコンビネーション。第1回放送から28年、通算510話目の「渡鬼」ブランドの強さに納得です。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)