【先週のメニュー】肉とナスのしょうゆ炒め定食、鳥から揚げ、冷やし中華

14日に放送されたテレビ東京ドラマ24「孤独のグルメ シーズン9」(金曜深夜0時12分)6話で、主人公井之頭五郎を演じる俳優松重豊(58)が完食した昼ごはんです。定食2つ分食べた後に“追い冷やし中華”の衝撃に、SNSも「別腹で冷やし中華って(笑)」「20代でもやらない」「思わず二度見」など大いに沸きました。

シリーズ開始から9年。50代の胃袋を気遣い、新シーズン発表のたびに番組ファンから“松重限界説”が出ては消えるのももはや風物詩。発表される松重さんのネガティブコメントも磨きがかかり、今回は「老けました。もう痛々しいから辞めろという声が聞こえてきたら、辞める覚悟はできています」というものでした。

しかし、始まってみれば心配無用の食べっぷり。というか、明らかに食事量が増えています。

1話のとんかつ屋さんでは、ゲンコツ大のヒレカツが2つも乗った定食をほおばり、クリームコロッケとエビフライを追加注文。2話では、金目ダイの煮付け定食と、舟盛りで来る刺し身盛り合わせ定食を並べて食べ、ご飯をおかわり。4話の中華では、蒸し鶏のピリ辛あえ、カキとニラのからし炒めのほかに、蒸しパン、ウナギかば焼きチャーハン、ナスの冷麺という炭水化物のフルコンボ。デザートに「3倍杏仁(あんにん)豆腐」も食べています。

19年のシーズン8までは、カレーとインドクレープとか、タンステーキセットにミートドリア追加とか、だいたい2~3品がアベレージだった印象。一品料理4品や、シメに冷やし中華が飛び出す今シーズンは、限界説どころか、胃袋が進化していると感じます。

58歳の進化の背景には、コロナ禍で苦境に立たされている飲食店への思いがあるようです。

コロナ禍で迎える初めてのシリーズとあって、「『孤独のグルメ』は、飲食店の方々とともにあります」と力強くコメント。「この1年以上、まともに外食していません。収録とはいえ、堂々と外で食べられることに喜びました」。飲食店とともに歩んできた9年の重みと、食の喜びに背中を押されています。原作者、久住昌之さんのツイッターによると、シメの冷やし中華は台本にはなく、松重さんが「まだいけるな」とアドリブで注文したとのことです。

マスクをし、店の消毒スプレーで手の消毒をする様子も、いかにも今どきのサラリーマン1人客という感じでほっこり。1人で食を楽しむ井之頭五郎はそもそも密とは無縁で、コロナ以前から普通に黙食。やっていることは変わらず、コロナ時代の連ドラとしては無敵の設定であったとあらためて感じます。

客が帰るたびに従業員が席とアクリル板を消毒して拭くひとコマに、五郎が「このご時世、やることが増えて、本当に飲食店の皆さんの努力には頭が下がる。毎日毎日ご苦労さまです」と心の声でリスペクトする場面も。かつて訪れた店を再訪したり、テークアウト客のシーンをさりげなく設けたり。「飲食店とともにある」という番組の願いが隅々にあります。

とはいえ、あれこれ考えず、金曜のド深夜に食の楽しさに没頭できるのが「孤独のグルメ」の魅力。松重さんの胃袋も絶好調のようなので、五郎を通じて外食気分を満喫したいと思います。とりあえず20日の第7話は、真夏の小岩で「ホイコーローと火鍋」です。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)