4月期の民放春ドラマが出そろった。木村拓哉「教場」シリーズの月9登場や、福山雅治が全盲のFBI捜査官を演じる「ラストマン」などミステリーの意欲作が豊作で、見応えを競っている。「勝手にドラマ評」54弾。今回も単なるドラマおたくの立場からあれこれ言い、★をつけてみた(主要枠のみ、シリーズものは除く)。
◆「風間公親 教場0」(フジテレビ系、月曜9時)木村拓哉/赤楚衛二/新垣結衣ら
★★★★★
警察学校“最恐”の教官、風間公親はいかに誕生したのか、現役時代のエピソード0を連ドラ化。実際の殺人現場、容疑者相手に繰り広げられる鬼指導はシリーズの中でもひと味違う臨場感がある。風間の圧と木村自身の圧に、バディとしてやってくる赤楚衛二、新垣結衣ら売れっ子たちの背筋がリアルに伸びていて、木村とどんな化学反応を見せてくれるのか週替わりで楽しみ。「これ以上失望させるな」「今すぐ辞めろ」。ほめて育てる働き方改革の時代に一石を投じるハレーション性も、すべての言葉に意味と理由があったと分かる読後感も盤石。このシリーズのファンなので、勢いで5。
◆「合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~」(フジテレビ系、月曜10時)天海祐希/松下洸平
★★★☆☆
女探偵と頭脳派男子のバディもの。「殺しと傷害以外何でもやる」にふさわしいスパイシーな方向性かと思ったが、悪徳ブローカーをギャフンと言わせるとか、世間知らずなお嬢様を悪党から救出とか、コメディー強め。給食のおばちゃんから80年代ジュリアナファッションまで、コスプレ天海祐希の快刀乱麻はさすがだけれど、リーダーを演じることが多い天海が久々にバディものというところに期待したので、天海祐希劇場的なままではもったいない。なぜこの稼業を始め、相棒とどう出会ったのか。ワケありの事情が明かされていくとともにバディ感が上がっていくよう期待。
◆「unknown」(テレビ朝日系、火曜9時)高畑充希/田中圭
★★★☆☆
本格ミステリーみたいなタイトルだが、中身はドラキュラコメディー。好きになった女性が吸血鬼だったがイチャイチャしてキス→ご両親も吸血鬼で驚いたがイチャイチャしてキス、というのが2話まで。街の連続殺人事件に田中圭がからんでいるっぽいが、ここまで来たら隠している秘密は狼男とかカッパとかでもいいくらい。制作はあの「おっさんずラブ」チーム。吉田鋼太郎、麻生久美子のアダムスファミリー感はさすが。棺おけ組み立てにてこずる吉田鋼太郎と田中圭の掛け合いなど、おっさんずコンビが永遠に面白すぎて、主演カップルの方が浮いてしまっている感。
◆「王様に捧ぐ薬指」(TBS系、火曜10時)橋本環奈/山田涼介
★★★★☆
業績不振の結婚式場を舞台に、家族のためにお金がほしい貧乏女子社員と、広告塔となる美人妻がほしいドS社長が偽装結婚。経営再建という共通ミッションで結ばれたイーブンな関係がうまくできていて、理想のセレブ夫婦を演じる2人のオンとオフがけっこう笑える。下町の大家族と、財界のセレブ一族という2種類のホームドラマでもあり、ひと騒動乗り越えるたびに互いを知っていく流れに好感が持てる。今後はそれぞれ引きずっている恋が出てきそうで、あれこれ散漫にならないよう希望。シンデレラストーリーで先は読めるので、2人の道のりを見届けたい。
◆「それってパクリじゃないですか?」(日本テレビ系、水曜10時)芳根京子/重岡大毅
★★☆☆☆
知的財産をテーマにしたお仕事ドラマは新鮮だが、ヒロインがおどおど、あたふた、ぐずぐず、めそめそ系でこちらの好みとはだいぶ違った。受け身体質と多すぎる登場人物で本線が進まず、1分1秒を争う知財のダイナミズムが立ち上がらない。素人なりに立ち向かう女子の馬力の方が、もうひと頑張りしたい水曜日向きだし、ドライな弁理士、重岡大毅とのバディ感もくっきりしたと思う。商標権と著作権の違いといった基本情報を「白い恋人」裁判などの実例で解説してくれるので決して難しくなく、最後は「みんながウィンウィン」に着地するので、人情ドラマとして見たい人はぜひ。
◆「わたしのお嫁くん」(フジテレビ系、水曜10時)波瑠/高杉真宙
★★★☆☆
家事をめぐる男女逆転は「わたナギ」、契約書から始まる恋は「逃げ恥」という既視感はあれど、視点を変えて見えてくるものを小ざっぱりとおさらいするにはちょうどいいサイズ感。波瑠が「清潔感」「安心感」「満足感」の営業3カ条をたやすく実践するヒロインをしなやかに演じ、男女格差というギスギスしがちなテーマをいい起伏で見せてくれる。家事の3つのステップを伝授する“お嫁くん”も攻めた性格でおもしろい。結婚結婚とうるさい親、商談の席で「うちの嫁に」の取引先社長など、古い価値観の描写が古典的、類型的なので、この作品らしいひと工夫があると助かります。
◆「あなたがしてくれなくても」(フジテレビ系、木曜10時)奈緒/岩田剛典
★★★★★
セックスレスというセンシティブな題材だが“レスされる方”の心理的限界が丁寧に描かれ、戦友のように出会った2人が見つけた居場所が不倫だった、という悲劇作りがうまい。子どもがほしいのにレスの主人公と、キャリアの正念場が続く妻から放置されたままの男。人の気持ちが分かるまじめ人間こその孤独に奈緒と岩田剛典の知性がはまり、「うちセックスレスなんですよぉ」のやけくそから始まる小さな変化がうまい。大胆な濡れ場でSNSが「茶の間で見れない」と沸くが、バリキャリ田中みな実の自己嫌悪、ダメ男のオーラがすごい永山瑛太を含め、最高のキャスティングがきちんと物語に連れて行ってくれる。
◆「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」(TBS系、金曜10時)山田裕貴/赤楚衛二/上白石萌歌
★★★☆☆
通勤電車ごと30年後の未来へ飛ばされた乗客たちの異世界サバイバル。設定は「漂流教室」、文明が崩壊した古代地球みたいな光景は「猿の惑星」という感じで、SF世代には懐かしく、新規の世代には新鮮かも。哲学も価値観も異なる2つのリーダーシップ(山田裕貴、赤楚衛二)が敵対しながらパワーを発揮していくブロマンスの様式美もしっかりある。車両とその周辺という閉鎖空間で理性が飛んだ乗客たちの金切り声ワールドが2話まで続き、この場所、この展開は3話が限界かと。次の場所への移動や元の世界との通信手段など、今後のSFあるあるを早めに期待。
◆「Dr.チョコレート」(日本テレビ系、土曜10時)坂口健太郎/白山乃愛
★★☆☆☆
どんな手術も成功させる10歳の天才少女、Dr.チョコレートの闇医者もの。設定のインパクトはあるが、主演俳優が少女の窓口役みたいで目立たないのはドラマとしてちょっとしんどい。ここはブラックジャック×天才助手ピノコ、という黄金設定に飛び込んだ方が坂口健太郎が生きるし、賢くチャーミングな白山乃愛ちゃんで令和のピノコを見てみたかった。1話は依頼を受けてからメンバー集めて6人チーム完成、座学知識だけで初手術成功。スキップされる途中の過程は最初から描かないのは今どきかも。学年誌世代とその親、というファミリー層向けとしては成功している。
◆「ラストマン-全盲の捜査官-」(TBS系、日曜9時)福山雅治/大泉洋
★★★★★
全盲のFBI捜査官とエリート刑事のバディ。アイカメラやAIなど、視覚障害者を助けるツールの進化をうまく捜査に組み込み、「見えない」を見える化した映像にスピード感あり。「見えなくて迷った」とちゃっかり侵入したり、白杖(はくじょう)を持つ人への油断を利用したりというしたたかさも含め、この人にしかできない捜査が広々とある。「どこにでもいるありふれた人間」というせりふから送り手の志が伝わってきたので、キャラ造形がまんまガリレオなのは積極策として受け取っておく。これだけ振り回されながらエリートらしさをキープできる大泉洋のうまさがバディを支えで、2人の過去という今後の縦軸にも期待。
◆「だが、情熱はある」(日本テレビ系、日曜10時半)高橋海人/森本慎太郎
★★☆☆☆
オードリー若林正恭と南キャン山里亮太という名前を出した段階で、見る人を選んでしまう。ビートたけしとか、もはや伝記の域に達している公共性がないと、内輪ウケと敬遠されて損。やはり又吉直樹の「火花」や菅田将暉の「コントが始まる」のように、自信をもって架空のコンビを打ち出してもらった方が間口は広がる。高橋海人(若林)と森本慎太郎(山里)が本人の特徴をつかんで体当たりしており、配信で見るジャニーズファンの再生数はしっかりつかめると思う。
【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)