アイルランドの歌姫、エンヤが謎めいた私生活を明かした。７年ぶりのオリジナルアルバム「ダーク・スカイ・アイランド」を昨年１１月に発表。キャンペーンで来日中に単独インタビューした。規則正しいリズムで創作に向き合う姿は、まるで勤勉サラリーマン。意外な素顔を率直な言葉で語った。

　数々の癒やし系の楽曲を生み出した歌姫の口調、雰囲気は穏やかそのものだった。大好きな着物の話題になると、テンションを上げて話し出した。「着物は２５着ぐらい持っています。旅行に持っていったり、家でリラックスする時に着たりします」。

　新作発表のたびに世界から注目される。私生活はあまり知られていないが、アナログ感を大切に素朴な時間の過ごし方をしているという。「コンピューター育ちではないので、ネットには興味がありません。Ｅメールは仕事など必要なものはやります。時間があれば、散歩に出たり、人に会って話す方が好きですね」。

　ジャンル問わず幅広い音楽に触れている。「何でも聴きます。最近は、コールドプレイ、サム・スミスだったり」。

　アルバム制作には最近、平均３年間を費やす。思い浮かんだメロディーや歌詞を書き留めることはしないという。「スタジオに入って実際に作業を始めてから、どんどん広がっていく力があると思っている。思い付いて、すぐにその場でメモをするということはありません。メロディーを記憶しておき、その記憶を元にその時感じた気持ちを音に落とし込んでいくのが私の曲作り。だからとても時間がかかる作業なの」。荘厳でメロディアスでスケールある曲の数々は、そうして生まれた。

　制作作業は地味だ。まるでサラリーマンのように、平日は楽曲制作に取り組み、休日はしっかり休むスケジュールを規則正しくこなしていく。「重要視しているのは、スタジオに決まった時間に入って作業すること。何かを書く必要がなかったとしてもね。週５日、朝の１０時から夕方の５時まで、自分を律しながら作っています。家に帰ったらスタジオのことはまったく考えない。仕事をしている人たちと同じ。週末は家族や友達と過ごします。平日は人付き合いができないので一生懸命やっています。ディナーパーティーのお誘いがあれば行きますよ」。

　スタジオでも、食事も規則正しく、きちんと取る。「忙しいからパパッと食べるのではなく、食べる時はしっかり食べ、仕事はしっかり、という風にしています。よくサーモンなど食べています」。

　「メリハリが大事」という言葉を繰り返す。作業が２カ月続くと、１カ月旅に出るなど、楽曲制作から離れる時間も意識的に保つ。「キャンペーンで世界を回るのも、いい旅の体験になります。ここ３年は親戚がオーストラリアにいるので行きました。時間を設けて違う場所に行くことを意識してやっています」。

　今回の取材でも、セレブリティーにありがちな大勢の取り巻きはいなかった。取材場所にいたスタッフはわずか２人。来日中の自由時間は通訳も同行せず、スタッフ２人と東京・銀座のデパートに買い物に行った。世界にファンを持つスターシンガーだが、人柄や私生活に浮ついたところは感じられなかった。【近藤由美子】

　◆エンヤ（Ｅｎｙａ）本名・エンヤ・ニ・ブレナン。アイルランド北部ドニゴール州生まれ。８８年メジャーデビュー。同年の日本初シングル「オリノコ・フロウ」はＣＭ曲としてヒット。９７年ベストアルバム「ペイント・ザ・スカイ～ザ・ベスト・オブ・エンヤ」は日本だけで売り上げ２００万枚の大ヒット。００年アルバム「ア・デイ・ウィズアウト・レイン」は全世界売り上げ１０００万枚に迫る大ヒット。同年に竹野内豊の主演映画「冷静と情熱のあいだ」で「Ｗｉｌｄ　Ｃｈｉｌｄ」が使われた。パナソニック「ビエラ」ＣＭ曲も提供。０８年ＮＨＫ紅白歌合戦に特別出演。セールス合計は全世界で７５００万枚以上。