歌手神野美伽(53)が「ブギの女王」笠置シヅ子さんの半生を歌、芝居でつづる音楽劇「『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』~ハイヒールとつけまつげ~」(11月23日~12月1日、クール・ジャパン・パーク大阪・TTホール)に臨む。

笠置シヅ子を演じる神野は「少しでも多くの世代に彼女の生きるパワーを」と意気込む。

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♪東京ブギウギ~

パワフルな歌声で、戦後の日本人を明るく励ましたブギの女王。神野も、笠置シヅ子さんをリアルタイムで知っているわけではない。それでも歌手として共感する部分が多い。

「あのエネルギー、個性と音楽性を持つアーティストはいない。以前から、最も尊敬する歌手の1人。戦後すぐに『東京ブギウギ』を歌っていたことがすごい。まだまだ餓死する人がいるような時代に『がむしゃらに生きるのよ』とメッセージを伝えたのだと思う」

生き方がどこか似ているとも感じている。

「5年前から海外の人に演歌、日本の歌の素晴らしさを知ってもらおうと、ニューヨークのジャズクラブなどで歌い始めました。演歌だけではなく、笠置さんの『ラッパと娘』なども」

「ラッパ-」のパワフルな歌声は国境を越え、反響はすごかった。

「米国に行ったのは、演歌にはもっと可能性があると思ったから。もっと言うと、演歌という言い方ではなく、日本の歌なんです。笠置さんの歌も日本の歌」

この5年間で「神野美伽」も変わった。今夏もフェスでジャズ、ロックなど違うジャンルのアーティストとステージに立った。

「私のステージを20代、30代の人に見に来てもらうのはなかなか難しいことだと思っていた。米国に行ったことがきっかけで日本のミュージシャンから『一緒にやろう』と。私が行く場所を変えればいい」

笠置さんを尊敬する理由のひとつは、がむしゃらに生きた「行動力」だ。

「戦前、戦後の時代に、米国のアーティストとコラボしたりしていた。あの時代にですよ。音楽って、個人と個人の思いが通じたら、それができるんです」

音楽劇は初めてだが、不安はないという。

「10代よりも、20代よりも、いまなぜ歌いたいのかがはっきりとしている。1曲を歌うことの意味を感じています。伝えたいことがいっぱいある。笠置さんが歌っていた時代は、みんなががむしゃらに生きていた。その先頭を切って走っていたのが笠置さんだった」

昨年12月に左足の痛みがひどくなる「リスフラン関節症」、右足の脱臼と外反母趾(ぼし)で両足の手術を受けた。懸命にリハビリに励み、復活した。

「実は、今回の舞台のために手術した。一から体をつくらなきゃと。理学療法士、ドクター、バレエの先生でリハビリチームを作り、この春からバレエのレッスンも始めた。着物ではなく、ハイヒールをはいたお芝居なので、バレエはしっかり動けるためのトレーニングの一環です」

笠置さんが1回しかステージで歌っていない楽曲も含め、約10曲をパワフルな歌声で披露する。「少しでも多くの世代に、彼女の生きるパワーを見せたい」。新たな“美伽ワールド”を披露する。【松浦隆司】

 

◆神野美伽(しんの・みか)

1965年(昭40)8月30日、大阪府貝塚市生まれ。84年「カモメお前なら」でデビュー。85年「男船」で日本レコード大賞金賞受賞。87年NHK紅白歌合戦に初出場。趣味は芝居・歌舞伎鑑賞、読書、古美術品。少林寺拳法2段、書道2段、1級船舶操縦免許などの資格、特技を持つ。

 

◆笠置シヅ子

1914年(大3)8月25日、香川県生まれ。27年に大阪松竹楽劇部(OSK日本歌劇団の前身)に入り、三笠静子の芸名で初舞台。その後「笠置シズ子」と改め、作曲家の服部良一氏と組み、ジャズ歌手に。47年の「東京ブギウギ」が大ヒットし「ブギの女王」と呼ばれた。55年に歌手引退。「笠置シヅ子」に改名して女優業に専念。85年3月30日、70歳で亡くなった。

 

◆「SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE~ハイヒールとつけまつげ~」

脚本はマキノノゾミ、演出は白井晃、豊田めぐみ。笠置シヅ子の半生を、歌と芝居とバンド演奏でつづる。神野の笠置シヅ子役に加え、山内圭哉、福本雄樹、星田英利、鈴木杏樹が出演する。ビジュアルの絵画は、野性爆弾・くっきー!が手がけた。