とぼけた雰囲気と独特の個性が視聴者の関心を集めている。フジテレビ系連続ドラマ「姉ちゃんの恋人」(火曜午後9時)に出演中のスミマサノリ(50)だ。有村架純が演じる主人公が働くホームセンターの同僚を演じている。役名「臼井」の通り、同僚から存在感の薄さを指摘されるが、なぜか気になってしまう男という設定。捨てられているイスに座ることが趣味という妙な行動に思わずクスッとさせられる。スミ自身もこれまで主にライターとして活動し、昨年から本格的に俳優業を始めた異色の存在。このほどニッカンスポーツコムの取材に応じた。
連続ドラマに出演するのは今回が初めて。毎日が緊張の日々だ。共演場面が多いのは、同僚を演じる有村や小池栄子だ。セリフは決して多くないが、その言動が周囲の関心を引いてしまう設定。ひょうひょうと演じている印象がある。
「(今回の出演は)もちろんうれしかったんですけど、連続ドラマというのは初めてのことで、(共演者は)皆さんすごい方しかいない中、大丈夫なのか、という思いはずっと思っていて、それは今も思っています」
50歳からの本格的な俳優挑戦。収録現場では、キャリアの乏しさを言い訳にはしたくないという。
「そういう気持ちで現場にいると、他の出演者の方々に失礼かなという思いがあります。そこ(=キャリアがない)は考えないようにして演じるのが、自分がやるべきことなのかなと思います。考え始めると、怖くて怖くて(現場に)いられなくなっちゃう」
もちろん慣れていない場所という思いはある。
「最初は怖かったですけど、気後れしているほうが逆に失礼かなと感じています。ある意味、出演者としては“対等”ということでいかないと多分、シーンが変な感じになってしまうのではと、収録最初の日に思いました」
大学卒業後、デジタル系の制作プロダクションに入った。マルチメディア関連でいくつかの賞を受賞。独立後も無料の娯楽サイト「デイリーポータルZ」で「自分たちが興奮したこと」を紹介したり、雑誌などに小説やコラムを寄稿するなど幅広く活動してきた。「割とこれまでの人生が流されてきたという感じがしまして。大学を出て一応、仕事はしていましたが、幼なじみの(俳優の)田辺誠一君と2人でやった仕事で賞を取ったりして、その流れで独立して会社をやっているというように、あまりいつも自分の意志がなく流されてきていることがありまして」
主にライターや映像作家としても活動する中で、自作コントの舞台に出演したこともあった。
「作り手だった時に自分が出るということもやってはいたんです。それはわりと予算がなくて、自分が出るしかなかったみたいな、少しネガティブな始まりではあるんです」
ライター業などが多忙で舞台出演は数えるほどだったが、50歳になろうという頃、心境に変化が訪れた。
「多分あと働けるのは20年ぐらい。そういうことを考えた時、今までのことを生かせることは何かなって思って。50歳から役者を始めてもいいんじゃないかって思っていますね。今までの人生経験みたいなものが、表現の世界で生きるということは、作り手でもできるんでしょうけど、出演ということのほうが、表現しやすいのかなって。そこでちょっと思いまして」
俳優業には本気で立ち向かうつもりだが、自分なりのスタンスも忘れたくないという。
「あまり力んでしまうとうまくいかないところが自分にはあるので、真面目な自分と、不真面目な自分のバランスを考えています。常に流れに身を任せていると、楽しい方向に行くような気がしています。それでも(俳優業を)小手先でやるつもりはありません。根の部分では真剣に、と思っています」
ただ今も人気俳優たちに囲まれる収録現場に立つと妙な感覚を抱くという。
「今まで裏方が多かったので、不思議な人生だなと思いながら、俺はここでいったいここで何をやっているのだろうと、ふと思うことがあります(笑い)」
「姉ちゃんの恋人」で演じている臼井という男は、捨てられている椅子に座るという一風変わった趣味を持つが、これはスミ自身の趣味がリアルに反映されている。いわば「当て書き」の設定だった。実は3年前から「捨てられた椅子に座るシリーズ」と銘打った画像をツイッターやインスタグラムに投稿している。
「その変な部分が、役とリアルな僕とつながっているので、そこを割とベースに、この人はこんな感じのキャラクターなのかなと思いながら演じている感じです。キャラクターの中にそういう趣味を入れていただけたので、役に入りやすかったと思います」
俳優としての理想は、映画「ストレンジャー・ザン・パラダイス」などで知られる米国のジム・ジャームッシュ監督の作品の登場人物を意識している。
「映画の中のオフビートなやりとりがすごく好きで、日常のそういう何でもない感じがうまいのはいいなと思っています」。
作品に何げないユーモアを吹き込む存在として活躍していくことが「俳優スミマサノリ」の当面の目標となりそうだ。【松田秀彦】
◆スミマサノリ 1970年(昭45)1月15日、神奈川県生まれ。フリークリエーターを経て作家、デザイナー、映像作家、パフォーマーとしてマルチに活動中。97年にマルチメディアグランプリでエンターテインメント賞、98年にも同グランプリでアーティスト賞を受賞。19年に俳優西川瑞と表現ユニット「劇団再現」を結成。167センチ。血液型A。



