小栗旬(38)が「罪の声」で初の主演男優賞に輝いた。未解決事件を追う新聞記者を、葛藤や苦悩を織り交ぜてリアリティーたっぷりに演じた。エンタメ界の中心人物ながら、日刊スポーツ映画大賞には初登場。「誰かの人生の一瞬に」と、夢や希望を与える映画の魅力をあらためて感じている。

映画、ドラマ、舞台と引く手あまた。抜きんでた存在感を発揮して久しいが、日刊スポーツ映画大賞では初の主演男優賞受賞となった。小栗は「『罪の声』では全ての俳優陣代表としていただいたという思いが強いので、非常にうれしく思っています」。言葉に主演の責任感がにじむ。

企業を標的にした実在の未解決事件がモチーフの社会派作品。犯人グループが脅迫テープに使用した子どもたちの“声”を手掛かりに、事件の真相に迫る新聞記者・阿久津英士を演じた。決して派手な役ではないが、塩田武士氏が15年をかけた渾身(こんしん)の原作小説を手に取ると、あっという間に引き込まれた。「途中からこの阿久津という役は自分がやりたいと思いながら読んでいた。それが出演の強い決め手です」。

新聞記者の存在意義を自分に問いながら取材を続け、事件の核心にたどり着くまでの心の揺れをこまやかに表現。現役記者からも「記者らしかった」「身につまされた」と反響があったと、照れたように笑う。特に宇野祥平(42)演じる声を使われた子どもの1人、生島聡一郎との出会いの場面から得たものは大きく、「宇野さんのおかげで、自分自身もこの人の人生を背負って事件を追及していかなければならないと、心から思える瞬間でした」。イギリスで撮影したクライマックスシーンにも、十分気持ちがのった。

映画初出演から約20年。あらためて映画の魅力を聞くと「映画や音楽に救われてきた」という共演星野源(39)の言葉を借りて、こう答えた。「確かにそうだなと。子供の頃から、いろんな作品に人生や夢を教えてもらった。自分も映画に参加することで、誰かの人生の、一瞬の何かになれたらと思っています」。

去り際、小栗は「大切にします」とひと言。映画界を背負う後ろ姿が頼もしかった。【遠藤尚子】

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◆小栗旬(おぐり・しゅん)1982年(昭57)12月26日、東京都生まれ。子役としてキャリアを開始。05年、TBS系ドラマ「花より男子」の花沢類役でブレーク。主演映画は「クローズZERO」シリーズ、「銀魂」シリーズなど。21年はTBS日曜劇場「日本沈没-希望の人-」、22年はNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」への主演が控える。184センチ、血液型O。

◆罪の声 35年前、企業を恐喝した未解決事件があった。新聞記者の阿久津(小栗旬)は、時効になった事件を追う特別取材班に選ばれ取材を重ねている。一方、テーラーを営む曽根(星野源)は、父の遺品の中にカセットテープを見つける。犯人グループが身代金の受け渡しに使用した脅迫テープと同じ声だった-。

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▽選考経過・主演男優賞 「映画が大好きで愛していることが伝わってくる」(福島瑞穂氏)など小栗旬を推す声と、「男の情けない姿を見せていて、共感し引き込まれ、すばらしかった」(不破浩一郎氏)など仲野太賀を評価する声。2回目の投票で、小栗が過半数獲得。

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★昨年「宮本から君へ」で主演男優賞を受賞した池松壮亮(30) 小栗さん、主演男優賞、本当におめでとうございます。直接お祝いの言葉を伝えられないことがとても残念です。小栗さんの、過去と今を静かに受けとめてゆくたたずまいが印象に残り、時代の転換期に、小栗さんが覚悟をもって役に取り組まれたことが深く伝わりました。実はいまだ小栗さんとは共演経験がありません。いつの日か、手をつなぎ、共に同じ物語を信じることが出来ることを楽しみに、僕もまだまだ精進していきたいと思います。このたびは心から、おめでとうございました!